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いざシカゴへ!
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シカゴ乗り物三昧
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ライト・イン・ザ・ピアッツア!
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ニューヨーク上空380m
▼#5
中村座N.Y.公演
▼#6
怒濤の17時間
▼#7
思いをめぐらせて |

さて、平成中村座のNY公演は……。
の前に、なんか大忙しだった私のこの数日間。まずは、そのリポートから。
いやーっ。昨日、いらっしゃいましたよ浅田次郎先生が、舞台『憑神』を観劇に。演舞場の客席に。終演後は、笑顔で「良い舞台だった」とご満悦のご様子。私も「原作を省略する手法が見事」とお褒めのお言葉を賜りました。「映画とどっちが良かったですか?」と、喉もとまで出かかった質問は、結局できずじまい。
若旦那(橋之助さん)も大喜びで「みんなで記念撮影しよーっ」とカーテンコールの緞帳が降りたステージ上で、出演者と浅田先生との全員写真の撮影。私もちゃっかり写りました。
し、しかもその後、浅田先生からサイン入りの『憑神』の本を頂きまして……ありゃー、これはもったいなくて頁が開けられませんよ。私が去年買った『憑神』はアンダーラインだらけで読めないし……困ったもんです。かなり睡眠不足の私でしたが、ホント、目が覚めました。
さて、なぜ睡眠不足だったのか?
それは、前日まで『The Light in The Piazza』の最終翻訳作業に追われていたからでした。
そして、その最終翻訳作業に取り組む前の数日間、私は、プロデューサー、音楽監督、歌唱指導の先生、そして、主演の島田歌穂さんらと歌詞とメロディーの確認作業のためスタジオに籠もっていたのです。
そう、『アワハウス』の時には訳詞はマッドネスの大ファンの後藤が担当しましたが、今回はそういう事情もなく、折角だから訳詞もやりたいっ! と言い張っておりました。
やってみて……ホント、訳詞って大変でした。1分ほどの詞をつけるのに、2〜3時間はゆうにかかる。何しろ、英語の情報量にくらべ日本語、特に歌の場合は、文字数が少なすぎる。しかも、譜面上、うまく割り振りできているように見えても、いざ歌ってみると、ヘンだったり、伝わらなかったり、大阪弁みたいなメロディーになったり、します。
そういうワケで、苦労して書き上げた訳詞を、男性パートは歌唱指導の先生に、女性パートは島田歌穂さんに実施に歌ってみてもらってチェックをしたわけです。(このチェックだけでも、のべ12時間を要しましたっ!)
風の噂で島田歌穂の歌唱力は凄いと聞いていたけれど、いや、ほんと、ほんとに凄かった。隣で聞いていて鳥肌たちましたよ。
それに、めちゃくちゃ難しい譜面をほぼ初見で歌っていくんだもん。それに凄い説得力。メロディーと言葉とが不可分なく、両方とも伝わってくる。自分では「いちおう書いてみたものの、伝わるかどうか」と自信の無かった曲も、歌穂さんの歌で表現されると、すごくクリアに伝わってくる。自分で書いた歌詞なのに、じーんと来ちゃったりして。いやはや音楽の力、肉声の説得力の偉大さも、あらためて知らされた12時間でした。
実際に歌ってみるとノッキングを起こす箇所、聞いてみると意味が伝わらない箇所は、その場で直していきます。どの音符でどの言葉をどう割るかということも細かく決めていきます。その作業の中で、逆に歌穂さんからも「歌い手の気持ち」として「原詩がもっているニュアンスをもっと日本語に」とのリクエストで書きかえることになった箇所もいくつかありました。日本語に置き換えるのが難しいからと、意訳を越えて創作で逃げてしまっている箇所ばかりでしたから、歌穂さんから「逃げないで、頑張って」と背中を押されたような気がして、「よっしゃー、踏ん張りまっせーっ」と力んだあまり、自宅に持ち帰り、手直し作業の夜なべ仕事をした結果、前述の睡眠不足になった次第。
けど、その甲斐あって、自画自賛でお恥ずかしいけど、いい訳詞ができあがったと思います。というのも、たった今、自画自賛と書いたけど、正確にはそれは間違いで、スタジオで出たいろんな意見や、英語のアドバイザーをしてくれてるNちゃんのおかげで、つまりはみんなの力の結集でいい歌詞ができたというわけ。これ、舞台芸術の基本原則。
普通のミュージカルって、歌の最中にもストーリーを進めなきゃいけないので、歌詞が説明的になりがちだと思うのですが、この『The Light in The Piazza』の場合、歌は「心情的な説得力」に重きを置いているので、原詩がおしなべて美しい。歌を純粋に歌として堪能して観ることのできるミュージカル。ほんと、皆さん、期待できますよ。この作品も。
と、この数日間のことを書きつづっていたら、やたら長くなってしまいました。ごめんさい。
さて、平成中村座のNY公演は……という話でした。

リンカーンセンター・エブリ・フィッシャー・ホール
垂幕?のあたりを拡大したのがこちら
あちこちで目にした、フェスティバルのビジュアル。
歌舞伎の意匠が使われていて注目度の高さが窺えます。
結論からいうと「せっかくなら楽日に行くんじゃなかった。もったいない」というのが結論です。なにしろ今回の演目の『法界坊』は数年前に歌舞伎座の納涼公演で披露されているのを観ている私。けど、リンカーンセンターでの公演ということで演出も変わるし、英語の台詞が導入されると聞き、外人さんたちの反応はいかばかりか?(もちろん日本語の部分も)というのが一番の興味でした。
ところが、楽日ということもあって、私みたいな日本人が押しかけて来ていて、客席に見えるブロンドの髪はちらりほらり。英語の台詞よりも、日本語のほうが受けがよい。という、これなら日本で観てるのとかわらないや。というカンジでした。
 
Lincoln Center Festival 2007のパンフレット表紙(左)と、
パンフレット内、平成中村座の案内ページ(右)
もちろん橋之助さんの名前もあります。
しかし、お芝居の内容のほうは、もう鳥肌ものでしたから、ま、良かったんですけど。日本が世界に輸出できる舞台って、やっぱ歌舞伎なのだなあと痛感し、「新作歌舞伎をいつか作ってみたい」という気持ちが、むくむくと湧き上がってきた夜でした。
あと、もう一つ「楽日に行くんじゃなかった」と思ったことがあります。それは、NYで歌舞伎を観劇後、橋之助さんと飲みたいなあ。と思っていたのでしたが、よく考えてみれば、楽日だから橋之助さんは打ち上げに参加、私と飲む時間などありゃしません。ところが……。
いや、この「ところが……」が曲者でしてね。私は平成中村座NY公演終演後の夜10時から、怒濤の17時間を過ごすことになるのです。
その顛末は、来週。
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【キーワード】
『憑神』
浅田次郎原作の小説を、中村橋之助主演、G2演出で舞台化。
『The Light in The Piazza』
トニー賞6部門受賞の名作ミュージカルをG2が演出
平成中村座
2000年に、5代目中村勘九郎を座頭として始まった一座。テント公演や仮設劇場で公演を行い、江戸時代の芝居小屋の雰囲気を再現させることに注力している。
前回のNY公演でもリンカーンセンターに仮設劇場を設営。その模様は平成中村座さんのHPでご覧になれます。
『法界坊』
歌舞伎狂言の演目のひとつ。正式名称は『隅田川続俤』破戒僧の法界坊の悪事を中心に描かれる喜劇。
リンカーンセンター
ニューヨークにある総合芸術施設。劇場や、コンサートホール、芸術学校、図書館などがある。
Lincoln Center Festival
毎年リンカーンセンターで行われる芸術祭。演劇だけのイベントではなく、舞踊やオーケストラなど多彩な演目で賑わう。
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