「ウィ・ウィル・ロック・ユー」の象徴・フレディー像



 今回は、ロックバンドの曲をそのままミュージカルにした2作品をリポート。2作品とも、まだ日本未公開なので、要チェックですぞ(あ、でもネタバレ満載なので、もし日本に来たら絶対に見ると思っている人は以下は読まないほうがいいかも)。


劇場のロビーでは故フレディーの写真展をやってて
(それを撮るのを忘れましたっ) それも見物。
レコーディング中にブライアンが撮った写真が泣ける。

 まずは日本でも有名な英国のバンド「クィーン」の曲を使った『ウィ・ウィル・ロック・ユー』。
 これはかなりショー的な要素の強い作品。有名なコメディ作家が書いたというだけあって、役者のギャグはかなり決まって客席は大爆笑。でも、ストーリーはかなりちゃちくて、無理あったかも。
 何しろ主人公の男の子の名前が「ガリレオ・フィガロ」、恋人の名前が「スカラムーシュ」……ってこれ、名曲「ボヘミアン・ラプソディー」の歌詞まんまじゃん。
 歌を禁止された世界で、なぜか知らないはずの「ボヘミアン・ラプソディー」のメロディーの一部を主人公が歌えることから、レジスタンスの救世主に祭り上げられる。が、レジスタンス運動はほどなく壊滅状態、へこたれそうになる主人公に、「みんなの協力があればやれるさ」と「ウィ・ウィル・ロック・ユー」を大合唱。そう、あの曲は手拍子があれば歌えるから、客席のみんなっ! 手拍子をおくれよっ! そしたら歌うぜっ! とノリノリのコール&レスポンス。
 もう、おじさんおばさん達が大熱狂。「クィーン」世代なんすねえ。「クィーン」ファンにとって嬉しいのは、生演奏をするバンドのギタリストが二人ともちゃんと「クィーン」のギタリスト、ブライアン・メイと同じあの特徴のある音を出していたこと。ブライアン・メイは多重録音で和音をよく使ってるから、同じ音を出すギタリストが二人必要なワケ。カーテンコールでわかったのだが、二人ともなんとカスタムメイドの「ブライアン・メイ・モデル」を弾いていた。
 さて、本編は、その「ウィ・ウィル・ロック・ユー」で盛り上がったところで閉幕。え? なんで? みんなの協力があれば歌えるから希望が持てたってところでぶつギレ的な終幕。しかも「ボヘミアン・ラプソディー」を全部歌えるようになるまでのストーリーなんだと予感させておいて、結局演奏せずじまい。
 もう、観客のフラストレーションたまりまくりのアンコール拍手の中、スライドで『「ボヘミアン・ラプソディー」をやって欲しいの?』の文字。マジむかつく演出。だが結局、カーテンコールは「ボヘミアン・ラプソディー」で大盛り上がりである。だって、ほらあの曲、ミュージカル俳優にとってはもってこいの曲じゃない。オペラ風で。


 二作品目は『アワ・ハウス』。これは日本ではあまり有名じゃないバンド「マッドネス」のロック・ミュージカル。昨年、英国の演劇賞をとったという大人気作である。
 最初に白状しておくと、観た直後は「???」でいっぱいだった。他の作品に比べ、ストーリーがこっているので、英語のわからない身としては辛い作品だった。けれど客席は特に若者たちが大盛り上がり。「クィーン」の時のように曲でではなくストーリーで興奮しているのが伝わってくる。


「アワハウス」を上演中のケンブリッジ劇場。(現在は閉幕)

 あんまり悔しいので、日本に帰ってから業界関係者を通して台本を入手。マッドネスのCDも買い込んで日本語対訳を読みながら、舞台を反芻してみた。面 白い現象だが、その時に感動が来た。
 とにかく、マッドネスの曲はどれもこれも歌詞が染みる。どの歌にも下町の貧乏で真っ正直な悪ガキたちが登場。不器用で、世間からは屑扱い。生活もひどいもの。でも根には愛に満ちていて、そして愛を渇望しつづけている。そんな若者の思いが、歌詞からびんびんに伝わってくる。
 だが、サウンドは軽快。どちらかというと歌詞の意味とは裏腹だったりもする。曲としてはそこがいいんだけれど、英語が理解できずにミュージカルを観ているとその裏腹さ加減がわかんないのよさ。
 ストーリーの方は、マッドネスの曲の歌詞をまったくいじっていないにもかかわらず、とても丁寧にきちんと紡がれている。この点は『ウィ・ウィル・ロック・ユー』のパープーさ加減とは対象的。
 16才になった少年が、映画の『スライディング・ドア』のように「もしも、あの時、こうしてたら?」という二つの運命をパラレルにたどっていく青春モノ。最後には「どんなにひどい生活であったとしても、愛する人と一緒であれば、それは正解さ」という結論になるのだが、これが、ぜんぜん説教くさくなく、自然に染みてくる。これはマッドネスの音楽の根幹に寄るところが大きい。
 作品的にもかなり「ニュー」なテイストで、役者もほとんどが「今、旬の」っていう香りがぷんぷん。振り付けも斬新。ドライブ感あふれる才気走るダンス。セットも超ポップ。主人公の運命が切り替わるたびに、舞台はくるくる変わっていく。二つの運命を演じる主人公はもちろん一人二役なのだが、彼の衣装の早替えは歌舞伎みたいで見事だった。まさしくお勧めの一品。でも残念ながら、この文章が載る頃にはロンドン公演は一時閉幕。観たい人は再演を待て。


見たっ!という証拠写真。
これ一人で撮るの結構むずかしい。

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