わかりにくいと思いますが中央は緞帳。ものすんごい風格。@ロイヤル・ドルリー・レーン劇場



 初のロンドンでの初のミュージカル観劇はあの名作『マイ・フェア・レディー』。
 いきなり告白すると、私はみごと開演時間に遅れ、オープニングを見ることができなかった。我ながらがっかりである。
 あとがっかりなのは、ロンドン最古といわれるロイヤル・ドルリー・レーン劇場の外観が工事中だったこと。劇場の前で写 真撮影をしようと思っていたのに……。


劇場へは地下鉄が便利。
バスは乗りこなすのが難しい!

地下鉄の駅で見つけた気になる看板。
すごくでかいから迫力あり。

 そんな私の憂鬱を吹き飛ばすような笑顔で迎えてくれたロビースタッフ。ところが、遅れて来たっていうのに、案内はしてくれない。まあ、英語で説明はしてくれたんだが、わからない。なんとなく勘を頼りに階段を上がっていく。ようやくたどりついた座席は「ドレスサークル」(2階席)の一番前。いやー、この劇場の2階は、日本の劇場の2階とは段違い。まるで招待席で見るような最高の席だった。
 そして作品の中身も「当たり」。ミュージカル慣れしていない私にとって、芝居がとてもナチュラルだったことが好印象。ミュージカルが苦手な人にとって「なんで急に歌い出すんだよっ」というのが最大のネック。ところがこの作品はそれがない。例えば、主人公のイライザが居酒屋の男どもと歌い踊るシーン。まず、自然にその場が芝居で盛り上がっていく。誰かが床を踏んだり、何かを叩いたり大騒ぎ、と、それがだんだんリズムになり、そのうち曲になっていく。んで、盛り上がりが最高潮に達したときに誰かが歌い出す。ついで我も我もと……。という具合に「ああ、歌いたくなるのはわかるよねー。盛り上がっちゃったもんねー」と納得できるのである。
 振り付けも最高によかった。誰も彼もが自由きままに踊っているかのように見えるのに、全体としては一つのグルーブにちゃんとまとまっている。舞踏会のようなシーンでさえ、「一糸乱れず」みたいな味気なさはなく、なんだかゆったりと気ままにそれぞれが自発的に踊っているように感じられる。つまり、「振付師の存在を感じない」振り付けなのだ。うーん、できる。
 で、圧巻はやっぱ装置。転換がとんでもないもんね。普通、転換が凄いと、ディテールがおろそかになる場合が多い。部屋の丁度品とか細かい小道具とが大味になりがち。ところがどっこい、競馬場から教授の書斎に目の前で転換しちゃう時だって、本棚から部屋のランプ、椅子や机といった雰囲気ものの細かい飾りが命のそんなものたち全てが「ががーん」という勢いで現れてしまうのだ。ディテールにこだわった装置の中では、しっとりとした芝居が馴染む。
 ポイントは舞台全体を覆うおしゃれでレトロな鉄骨。何もないときは、それが市場の屋根を表したり、競馬場の客席の屋根を表したり。こいつが転換で大活躍。その鉄骨と鉄骨の間をレールにして、バラバラになった教授の書斎のパーツがあちこちから現れ、すーっとはまっていくのである。合体ロボのごとく(あー、言葉で説明するのは難しいっ!)。


さすがはロイヤルシアター。
休憩中のロビーはご覧の通り。

 問題の英語については……惨敗だった。ヒギンズ教授がシニカルなジョークを飛ばすたびに客席は爆笑だったが、私はほとんど笑えなかった。だが、心配は要らない。有名な作品だから筋は知っている。笑えないけれどストーリーは楽しめる。
 英語で見てよかったという点もある。イライザは教授に言葉のレッスン。つまり英語のレッスンを受けている。その内容がビビッドに伝わるのである。例えば、「ホテル」を「オテル」と発音するのを治すとか、アクセントが変なのを治すとか、その悪戦苦闘ぶりは日本語版を見るよりもダイレクトに伝わってきて、この場面 は相当笑える。
 その悪戦苦闘するイライザを演じていた女優さんがとっても良かった。歌がめちゃ上手いのは当然として、芝居も自然で上手い。『マイ・フェア・レディー』はミュージカルの中でもストレートプレイ部分がかなり多い作品なので、彼女の芝居の素敵さが作品全体を華やかにしていたと思う。……の割には、女優さんの名前は調べなかった。知りたい人、ごめんなさい。

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