さて前回、私の手元にやってきた「至急メール欲しい」のFAX。
どういうことかっていうと、とある作家が私に台本を添付データで送ってきたとしましょう。その作家さん、制作スタッフには送らないで私にだけ送ってきたらしいのだが、それに気がつかない私は、ロンドンへの出発日だったこともあり、誰にも転送することなく飛行機に乗る。
 日本では、その作家が旅行に出払ってしまった。国内旅行なので連絡は取れたがパソコンを持っていないので自宅に戻るまで送り直せないという。
 てな事情でスタッフから私に、「ロンドンからメールで送ってくれ」とFAXが届いた。というわけ。
確かにね、海外から台本をFAXで送ったらとんでもない金額になるところ、メールって便利だわな。

 ところがね、前回のロンドンではメールで困らなかった記憶もあり、旅行社からホテルに問い合わせて見てもらったところ、「ホテルがインターネット用のコネクタを貸してくれる」ということだったので無防備で来てしまった私。で、フロントに行って「インターネット用のコネクタを貸してください」と言うと、「ハウスキーパー・オフィスへ行け」という。行ってみると、いかにもブルーカラーって感じのおばさんたちがひしめき合うオフィスというより詰め所って呼びたいくらいの小部屋。誰も彼も「インターネット」というだけで「?」という顔。「これかも」と出してくれた電話線も、UK×UK仕様で、JP×UK仕様のケーブルが欲しい私には意味がない。「もう良いです」と出ていこうとすると、その集団の中でもいちばんインテリっぽい女の人が「あなたのパソコンはラップトップですか?」と聞く。うわー、日本では死語になってる「ラップトップ」という単語を聞いて、うーんラップトップかなあ? ノートパソコンなんだけれど、まあラップトップかなあ? と首をひねりながら「イエス」と言う。我ながら妙なリアクション。その女の人によれば「隣のカフェに行けば、最新のテクノロジーを使った無線LANが使える」とのこと。「最新のテクノロジー」となぜ付け加えたのか、意図がわからんのだが、とにかく、隣のカフェへ。確かに愛機パワーブックのAirMac機能はなにやら反応している。が、やっぱパスワードが無ければダメじゃないの。でも、そのカフェ、インターネットについての貼り紙ひとつ無いんですよ。この繋がりかけてるネットもどこかの大学のものみたいだし。と、ふと見ればコインを入れればネットが楽しめるという機械が4台置いてある。15分2ポンド。これのことかな? と試してみる。ウチのホームページが出てきた時には感動したけれど、マイパソコンとつなぐことはできないから、添付書類をメールで送ることはできない。

 そこで、こういう奇策に走る。うちの会員登録ページのフォームに行き、住所欄に「インターネット開通できず、メール送れない」と書き込んで、送信。これならメールソフトなしに事務所には連絡が取れるじゃあないか。と、ほっとしたけれど、よく考えりゃ何の解決にもなってない。部屋に戻ってSo-netのロンドン事務所へ電話。「ネットができなくて困っている。どうすれば良いか」と質問すると、あからさまにバイトちゃんという日本人の女の子が出てきて、要領を得ない。やっとわかったことは、もしパスワードを手に入れても英国内での無線LANにSo-netが対応してないから使えないらしい。「では、どうすれば?」「電気屋へ行ってコネクタを購入されるしかないですね」「それはどうも」と電話を切る。

 ここで私は、すっかり逃げ出したくなった。昔、アップル社からスティーブ・ジョブスがいなくなってMacがつまんなくなった時代に、ウィンドウズ、っていうかソニーVAIOに転んだ時期があるのだが、転んでから1週間も四苦八苦してやっとネットに繋がる。というような経験を持つ私。第一、中学校の時に学校の授業で作ったトランジスタラジオが鳴らなかったのはクラスで私だけという経験を持つ私。
 そんな私がこれ以上あれこれしてもネットに繋がりそうにない。この悪戦苦闘から逃げ出したい。
 「そうだ、カムデンに逃げよう」自分でも面白いなあと思ったが、今まで「カムデンに行く」ということから逃避していたのに、ネット接続から逃げようとするあまりカムデンに行くことになっちゃった。
 まあ、要するに日本のスタッフに対して「今日は今から本来の目的のカムデンに行くんだから、ネット接続にはこれ以上、時間かけられないんですよ」という言い訳ですね。小心者なのです私は。

 そんなワケでカムデンに到着。

 なつかしのカムデン。前回は、舞台専門のブック・ストアを訪れるために通り過ぎただけのカムデン・ハイ・ストリート。ミュージカル「アワハウス」の舞台となった町。「アワハウス」の音楽を担当するスカ・バンド「マッドネス」が本拠地とした町。


 前回はほんと通り過ぎただけなので、露天商溢れるマーケットには訪れていない。っていうか今回も営業が土曜・日曜ということを知ってマーケットには行けない。と思っていたが、実際、露天のマーケットは店を開けていた。確かに、いちばん大きな「カムデン・ロック・マーケット」は全体の半分が店じまいしてたけれど、十分楽しめた。全部開いてたら、身体が持たなかったであろうと想像がつく。


 そしてマーケットは相変わらず怪しい。「アワハウス」ではこのマーケットのシーンは、クライマックス直前の大事なパート。映画ロッキーなら試合直前のトレーニング中に、あのロッキーのテーマがかかるシーンに相当する。わかります? まあ、わからなければ見に来てください「アワハウス」。




 さて、今回の目的の大きなひとつとして、「カムデン・ロック」「カムデン・カナル」を見る。ということがある。日本語に訳せば、カムデン水門と、カムデン運河。前回通り過ぎた時にはこの二つは全く目に入らなかった。だが、地図で見ると、カムデン・ハイ・ストリートを行けば、運河を越えているはず。

 歩いていると、ああ、確かに橋がかかってる。思い出した。橋渡ってたよ俺。そして橋に見つけるNW1の文字。これ、ロンドンヴァージョンの「アワハウス」ではシンボルともなった番地。

 実はNW1っていうのは結構広いエリアのことを指す。っていうのは帰国後わかった事実。その瞬間の私ときたら、やった、「アワハウス」に出てくる主人公の家はこの超近くだ。探そう、探し出せる。主人公の家はケイシー・ストリートにあるってことだから、ケイシー・ストリートを探せばよいのだよ。うん。
 そう思いこんでしまった私は、またまた新たな困難に遭遇することになるのだが、それは次回。


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