さていよいよロンドンでのミュージカル観劇である。
 ロンドン・ミュージカル「アワハウス」のオファーが来たとき、私はミュージカルというものを殆ど見たことがなかった。
 劇団四季の「キャッツ」を見て、ちょっと、ひいてしまったのだ。ストーリーが無い、日本語訳が嫌、お客さんを巻き込もうとするのがうざい。そんな理由だったと思う。もう20年前くらいのことなので覚えてない。四季関係者の方がこれを読んでいたらすみません。好き嫌いの問題なので、まあ軽く流してください。
 それ以来、日本国内ではミュージカルを見たことがほとんど無かった。(海外では、昔、ニューヨーク行った時に、2本見たけど、どっちかっていうとダンスパフォーマンス・ショーに近いもの)頑張って思いだそうとしても、宮本亜門さんの「アイ・ガット・マーマン」と、初演の「ミス・サイゴン」くらいかな? 「ミス・サイゴン」はいたく感動したけど、それをきっかけにミュージカルへ足を運ぶのが増える。という変化には繋がらなかった。
 んー、そう言えば「キレイ」「ドント・トラスト・オーバー30」「オケピ」は見てるけど、独断と偏見と尊敬の念をもってこれらはミュージカルにカウントしない。
 そんな私にミュージカルの演出の依頼である。
 とにもかくにも、ロンドンにその作品を見に行こう。というのが実は前回のロンドン旅行の秘話。
 その作品だけ見に行ったのではミュージカル界の全体像もつかめないし、この歳になってまだウエスト・エンド行ってないってのもなんだし、1週間かけて見られるだけ見た。その感想などは、前回のロンドン日記を見てください。

 さて、今回は、前回までのお読みになればお分かりだろうけれど、アワハウスのロケハンという意味が強かった。だが、それにくじけ、急遽、観劇に切り替えたため、見たいものをセレクトはしていなかった。
 街を歩きながら「何を見ようかな」てなもんである。


 そんな中でも1本だけ最初から見るつもりの作品があった。アンドリュー・ロイド・ウエーバー&トレバー・ナンの新作「ウーマン・イン・ホワイト」である。これは開けたばかりだから、まだ見てる人少ないんじゃないでしょうか?
 なぜこれを? というのには理由があります。まず脚本が「ハンブル・ボーイ」のシャーロット・ジョーンズだったってこと。一昨年グローブ座でいのっち主演で取り組んだ「ハンブル・ボーイ」はもともと私が脚本の素晴らしさに惚れ込んでやることにした作品だったし、その時から彼女の次の作品が「ウーマン・イン・ホワイト」であることは知っていた。
 もう一つ理由があります。前回のロンドンで「レ・ミゼラブル」を今更ながらに見て感動した私は、演出のクレジットに、ジョン・ケアードとトレバー・ナンの2名がクレジットされていることが気になってしかたなかった。どうやって演出家が二人いることが成立しているのだろう? と。共同脚本は最初に誰かか書いて、次に誰かがそれをリライトして。というのが想像がつくが、演出は共同ではなかなか難しいだろう。しかも、これだけ一糸乱れぬ演出意図が全編を通じて貫かれている作品で複数演出家がいるとは考えにくい。
 その謎を解くためには、ジョン・ケアードとトレバー・ナンがそれぞれ単独で演出したものを見るしかあるまい。そんな私に好都合なことには「ウーマン・イン・ホワイト」はトレバー・ナンの単独演出だ。
 後日談だが、その後、日本でジョン・ケアード単独演出の「ベガーズ・オペラ」も見ることになる。
 両作品を見終わった私は、はっきりと「共同演出」の方法論が見えてきた。
 トレバー・ナンの「ウーマン・イン・ホワイト」は画期的な演出だった。装置はほぼ白い丸い壁だけ。まさに「ウーマン・イン・ホワイト」である。その白い壁に「カタリスト」という新兵器を駆使して、どんどん映像でセットが映る。というか装置替わりの映像だから写りっぱなし。映像だから瞬時に場所移動が可能。映像だから屋外もらくらく。そして、「レ・ミゼ」でも得意の廻り舞台を駆使して、どんどん人や道具を動かしていく。
 一方、ジョン・ケアードの「ベガーズ・オペラ」は、どちらかというと正攻法の演出。だが、役者がみんな生き生きしている。動きも表情も。装置はかなり素敵で豪華だが、動きはない。変化はない。でも、人々が様々にいろんな持ち道具を使って、馬車のシーンを作ったり、牢獄になったりと、とても楽しい。朋友・橋本さとしもユニークな持ち味出してたし、何よりも感動的だったのは、カーテンコールで(私が見に行ったのは、千秋楽だった!)村井国夫さんの「この舞台にかかわる人のすべてが平等で、誰が偉いとか偉くないとか関係ない。それを教えてくれたジョン・ケアードに感謝します」という挨拶を聞いて、私は涙が止まらなかった。これなのである。これがあるから芝居は止められないのだ。自分が最初に芝居をやり始めた時の感動を思い出す一言だった。聞けば、このころのロンドンについて全員が調べてみんなの前で一人ずつ発表する。というようなことも稽古場でやっていたらしい。
 この両作品を見て、もう一度「レ・ミゼ」を思い出してみると、二人の演出家の棲み分けが見えてくる。廻り舞台を使ったあの計算しつくされた人の配置と、物の配置、その転換のバリエーションは間違いなく「ウーマン・イン・ホワイト」でも見せたトレバー・ナンのプランだろう。そして「レ・ミゼ」を支えるもう一つの魅力。それは何と言ってもミュージカルの中でもひときわ輝く豊かなドラマ性。それを支える役者の芝居をジョン・ケアード演出が支えていたのだろう。また群衆シーンでも一人一人の動きがとても個性的。あれは振付では無理。役者が人物像をしっかり作っていないとできない、役者のプランの賜だと思う。
 上記は単に私の推理だが、結構当たっていると思う。というのも、現在日本で公演中の「レ・ミゼラブル」の楽屋でシルビア・グラブとコング桑田と雑談していた時のことだ。「向こうから演出家が来てるの?」と尋ねると、「うん、二人いるうちジョン・ケアードが来て、役についての人物像を浮き彫りにするような指導を受けた」とのこと。確かに動きのフォーメーションはトレバー・ナンがわざわざこなくても既に決まっていることだから演出助手か舞台監督が代行できるものね。だから、「レ・ミゼ」に関する演出の考察はいいセン行ってると思う。

 「ウーマン・イン・ホワイト」は結果あまり感動しなかった。デジタルな印象を持つ映像セットと、アンドリュー・ロイド・ウエーバーの古式ゆかしき濃厚な音楽があまり合わなかったような気がする。でも、ちなみに全くストーリーがわからなかったので、それがわかれば感動するのかもしれないけれど。でもねー、言葉がわからなくても、なんとなくストーリーはわかるんだけれどね、ミュージカルってやつは。


 その日はもう一本見ました。
 これはもう今更ながらの作品で、日本公演もやった「ストンプ」
 私、結構パーカッション好きなんですよ。パーカッションの映える音楽とか結構好きなジャンルだし。
 それにしても、この公演には圧倒された。人間ってすげえな。
 ご存じの方はご存知の通り、モップとか台所用品とか日常の道具をつかってパーカッション演奏をしていく集団なのだけれど、そのアイディアが凄まじい。業務用の大きなペットボトルを使ったり、塩ビ管を使ってのパーカッションは不思議な音色であれで楽器つくれば良いのにとさえ思う新発明。マッチ箱とか新聞紙までパーカッションの道具にできるのも凄いしね。日常にあるすべての音は、すべて音楽にできるのだな。と月並みな感想だけれど、本当にこう思えるのは、その繰り出される数え切れないアイディアのおかげだろう。
 でも、いちばん感動したのは、何も道具を持たず、ハンド・クラッピングだけで演奏した曲。これは凄いよ。手を擦る音を取り入れたり、身体を叩いたり。足踏みがバスドラムの役割を果たしたり。いやいや大変参考になりました。ん? 何の参考かって? 今年最後にして最初のG2作・演出作品の参考になりました。(今年は、台本書いても翻訳だったり、原作ありきの脚本だったりしてるから)まだ公演自体は発表されていないので、詳しく書けませんが、人間パーカッションがドラマに大きく影響してくる作品。だから参考になったんです。そういう作品だから、あの人が主役ですよ。当ててみて。正解者の中から抽選で、G2特製、ダジャレ付き絵はがきを差し上げます。嘘です。


 ちなみにこの公演のDVDも買ってきました。実は後藤ひろひとに教えてもらっていたのです。「イギリスはエリア・コードが日本と一緒だからパソコンならロンドンで買ってきたDVD見られるよ」と。だからロビーでの物販のお姉さんが「エリア・コードがこれこれですけれど、大丈夫ですか?」と説明されても平然と、「イッツ・オーケー」と買うことができた。ただし方式はパルだから、普通のDVDデッキでは見られませんけどね。と思ってたら、うちのDVDデッキでは見ることができた。びっくりしてデッキの説明書を見たら、このデッキ、パルも見ることができると書いてある。そんなに高価なデッキではないのに。いやあ、世の中はメディア統合に向かって進んでますなあ。その調子で次世代DVDもなんとかしてよ。日本の技術者の皆さん。

 なんてことを考えながらホテルへ戻ると、FAXが届いていた。
 「大至急、メールください。日本ではとても困っています」ジーツープロデュースのスタッフ尾崎からである。えーっ。メールって言われても、困ったな。
 そうなんである。前回のロンドン旅行では難なく繋がったインターネットが今回はうまくゆかなかったのだ。
 次回は、そんな新たな大ピンチ話か、もしくは、ミュージカル観劇のつづきか、もしくは、遂に本当の目的「アワハウス」の誕生の地を訪ねるか……まあ、3つのうちのどれかです。ではまた。


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