ヒースローの地下を潜って地上に出た時……私の目に飛び込んできたのは完全な夜景だった。
 あれ? あれれれれ? なんで突然、夜になっちまったんだ。時計を確認、17時すぎ。前回のロンドンでは、まだ昼のように明るかったはず。なぜ? 時計が壊れたのか? それとも天変地異か? いや、今日のロンドンは皆既日食だったっけ?
 ち、違う。
 季節が違う。
 前回来た時は夏。日は長い。しかもサマータイムだから余計に日は長い。劇場での公演が始まる20時近くまで日はあった。 しかし、今は冬。緯度の関係からしても、東京よりも日没が早くても当然。
 がっくし。である。
 現地に到着して、連続して英語力の無さを突きつけられ、精神的に参ってた私、しかも前述のように腰痛に悩まされながらの旅である。私の構想ではどちらかというと朝の光に満ちたカムデン・ロック・マーケットの写真を撮る予定だった。それが、夜のマーケット……。しかも露天。しかも日没が早いから、早く店じまいする所が続出なのではないか?
 そう、思ったとたん、今まで張りつめてきたものが「ぷつん」と切れてしまった。
 「もう、いいや」
 そう思った私は、ヒースローエクスプレスを降りると、今夜はホテルに直行することに決めた。取りあえずなんでもいいから安心できる空間と時間を持ちたい。
 ところがホテルにも容易にはたどり着くことが出来ない。
 ロンドンの地下鉄での乗り換えはラッキーが続けば階段を使うことはない。エスカレーターやエレベータですいすい。しかも、ここパディントン駅から、目的のラッセル・スクエア駅は、サークル線を使えば、一度だけの乗り換えで行ける……はずだったが、「日曜はサークル線を運休します」の張り紙。ええっ! だってサークル線と言えば、東京では山手線、大阪では環状線に相当する市内中心部を環状にめぐる重要な幹線。それが、なんで日曜日に運休なのよっ! とあきれかえったが、仕方がない。遠回りして、余計な乗り継ぎで行かなければならないはめに。そしてこの乗り換えで地獄のような階段の嵐。このままでは私の腰は終わってしまう。
 腰が終わる直前ぎりぎりに、ようやくホテルに到着した。


 ホテルのスタッフが間違えたのか、元もとそうなのか、シングルにしては広い部屋。だってベッドも二つあるし。バスルームも悠々の広さ。
 少し救われた気持ちになると同時に、戦闘意欲もここに来て完全に消失していた私は、「外出恐怖症」に襲われた。日は暮れてしまったとはいえ、まだ18時。現地実質3日間しかない貴重な時間。ロンドンの街へ繰り出していくべきはずが、全く外へ出て行く勇気がわかない。
 「もう、いいや」
 ホテルのレストランで晩飯は取ろう。
 そう思い、1Fへ降りる。レストランというより、カフェテリア。

 ぶっちゃけて表現すると学食に近いシロモノ。しかも、18時で食事時だというのに、店内はがら〜ん。

 メニューを見ると、定番のローストビーフのセットとか、フィッシュ・ アンド・チップスとか。
 「前回のロンドンでも初日の夜にフィッシュ・アンド・チップスを食 べたなあ」などと中途半端に思い出し、フィッシュ・アンド・チップス を注文してしまった。

 食べ始めた瞬間に思い出した。「これはそんなに美味いものではなかった」
 しかも量多過ぎっ! しかも前回は専門店で食べたから揚げたてだったけれど、今夜のは学食に近いモノだから、かなり前に揚げたのを暖めてあっただけ。ぜんぜん美味しくないのである。
 ここに来て、本当に心底、思った。
 「俺、何のためにロンドン来たんだろ?」
 そして、食事を終えた私は、まだ20時だというのに、ベッドに倒れ込んで眠ってしまった。あからさまに現実逃避である。

 カムデンのマーケットを訪ねることを断念せざるを得ない状況に陥った私に、翌朝、またまたバッドな話題が降りかかる。腰痛がひどくなっているのだ。これでは、街を歩くことさえおぼつかない。
 「もう、いいや」
 私は、ロケハンならぬ演出ハンティングをすることそのものを断念。
 朝の早い私は、割り切って、締め切りが近づいている秋の公演の台本を書き始めた。
 馬鹿ですねえ。わざわざ無理してスケジュール調整して、ロンドンまで来て、部屋に籠もってロンドンに関係ない舞台の台本書いてるなんて。


 昼ご飯を食べたあたりから、少し元気も取り戻してきて、「でも、せっかくロンドン来たんだし、これじゃあねえ。ミュージカルでも見まくって帰ろう。そうだよ。せめて、そうしよう」
 というわけで、なんとか元気を取り戻しつつあった私は、外出恐怖に打ち勝ち、いざウエストエンドへ。
 このホテルの良いところは、もよりのラッセル・スクエア駅が、ウエストエンドの中心地コヴェント・ガーデン駅までたったの二駅。
 ホテルからラッセルスクエア駅までは3分程度。行く道には、


というような、何か気持を高揚させる風景が目に飛び込んできて、だんだん旅行気分が復活してくる。



 さて、地下鉄にのってやってまいりましたよコヴェント・ガーデン。
 うーん、懐かしい。2年前を思い出します。
 あの時とかわらない町並みを見ているうちに、あの時と同じワクワク感が蘇ってきます。
 コヴェント・ガーデンあたりを歩くうちに、こうして私は気分は完全復活。自然に笑いもこみ上げて来たのでした。



 コヴェント・ガーデンかレスタースクエアのチケット屋さんでミュージカルのチケットを入手しようという腹づもりでしたが、何を見るかはあまり決めていませんでした。もともとミュージカルで今回是非見ようと思っていたのはアンドリュー・ロイド・ウエーバーの新作だけでしたから。街を歩きながら見るものを決めようという程度。
 でも、ふと前回のロンドンで、このコヴェント・ガーデンのマーケットには来ていないことを思い出し、カムデン・ロックじゃないけれど、せめてロンドンのマーケットの模様を写真に納めようと、足を踏み入れます。


ここは、アップル・マーケットと称される露天商の集まるコーナー。
露天商と言っても上にはこういうドーム型の屋根っぽいものがついていますから、天井の高い百貨店といった趣。



こういう、アンティークなものが所狭しとズラリ並んでおります。小道具屋さんとか行って来て欲しい。



古い写真などを売っている露天商も。その中の一枚が気に入りました。
このマーケットでの芸人さんたち。


実際、今日も芸人が出てました。トークっぽい内容だったので、私には分かりませんでしたが、集まった人たちは大爆笑してました。

てな具合に、楽しんでいる間に気分も盛り上がり、
その後、私は、4本のミュージカルのチケットを入手することになります。
 今日を入れてあと3日しかないのに4本ですよ。4本。
 さて、どんなミュージカルを見てきたのか? そして、「アワハウス」の街、カムデンタウンには行けるのか?
 それは次回以降をお楽しみに。



<<第3回  第5回>>

G2プロデュースHP総合トップへ