茫然自失。
 ことばでは聞いたことがあっても、体験したのはこれが始めてかも。
 嘘? 飛行機に乗り遅れる? そんな?
 だって、これ格安チケットだから、きっと時間変更とかきかないだろうし、行きはともかく、帰りのチケットも無駄になる? えー? 今から、家に戻るしかないのか?
 あざ笑う家人や、G2Pのスタッフの顔が浮かぶ。
 その瞬間の私の心情は、まさに、
 「………………………」ということでしか表現できません。

 いやいやいやいやっ!
 なんとかなるかも? いや、なんとかしよう。
 チケットは無駄になっても、苦労して作ったこの数日間の休日を無駄にはできんっ!
 私は、心に鞭を打って、携帯電話の番号をプッシュ。
 旅行社とは、すべてメールのやりとりだけで手配した今回の旅行。まさか出発日、そして、こんな時に始めて電話することになるとは? だが、受話器からはむなしく留守番電話の声。「日曜日はお休みとさせていただきます」
 げげっ。そんなっ! あっけなく幕切れか? だが、留守番電話の声は続く。
 「緊急の場合は、本社へお電話ください」
 よしっ。望みは繋がった。本社へ電話をかける私。
 「すみません! なんだか私、飛行機に乗り遅れたみたいなんですけどっ!」
 なんと情けない状況説明だろう? でも、本当にそうだから仕方がない。
 先方はてきぱきと、お客様の便名は? と聞いてくる。なんだか声のトーンが頼もしい。便名を答えると、「その便の出発時間はまだ過ぎてませんが?」「でも、飛行機はいないし、電光掲示板にも出発済みのクレジットが出ているんです」「少々お待ち下さい」
 先方が席を外していたのは、ほんの十数秒だったのだろうが、私には膨大な時間の流れに感じた。流刑の気分の私に、先方の声が響く。「お客様、今、何番ゲートにいらっしゃいます?」「16番です」「お客様がご搭乗なさる飛行機は27番ゲートですね」「は?」「ゲートをお間違えになってませんか?」「でも電光掲示板に……」「今、成田空港のホームページを見ていますが、901便は、27番ゲートで搭乗手続き中とクレジットされていますよ」
 うわーっ。じゃあ、酔っぱらっていたから間違えたんだ。きっと。そうに違いない。私は、「わかりました。とにかく走ってみます」と電話を切る。
 時計を見る。11時50分! げげっ! 俺ってば15分近く、茫然自失していたのか? やべっ! 出発時刻は12時だぞ? 27番ゲートは? 構内マップを見ると遠いっ! 走らねば、全速力で疾走して始めて間に合う時間だっ! よしダッシュっ! え? え? え? なんで? なんで……私は?

 なんで私は、床にかがみ込んでるんだ?
 それは、腰に激痛が走ったからだ。
 しまった。ぎっくり腰だ。うわー、走るどころか、歩くこともダメかも。
 がんばれ。がんばれ、G2。ここでくじけたら乗れるはずの飛行機にも乗れないぞっ!たぶん歩いていたんでは間に合わない。というかまず立たなきゃ話にもならない。
 ロンドンに行きたいかっ! 行きたければ立て、立つんだG2!
 私は踏ん張って、立つ。なんとか立てた。右足を踏み出す。踏み出せた。左足を踏み出す。踏み出せた。だめだ、だめだ、だめだ。こんなテンポでは27番ゲートに間に合わないっ!  よし、走るぞ。右足と左足を交互に出すスピードを上げる。上げる。上げる。……上がった! 奇跡! ぎっくり腰状態で、私は走っている。
 「くぅあじばのバカじぃからあっっっっ!」そう叫んでしまったかもしれないくらい、私は無我夢中で走った。走った、走った。今、まさに全力疾走する私。
 激痛と、風圧で、涙が出てくる。涙、涙、涙! かすんだ目の端っこに「27」の数字が見えてくる。あれだっ! 腰よ、あれがロンドンの灯だっ! 走れ! 走れ! 我が巨躯!
 間に合った。ゲートの搭乗口に到着した時、列に並んでいたのは、たった2名。ぎりぎりセーフ!

 初のヴァージンアトランティックの旅。
 なかなか快適でした。アメリカ大陸へはなぜかいつもJALなので、外国の航空会社での比較となると、前回のロンドン旅行の際のKLMオランダ航空との比較っていうことになるが、なんとなくではあるが、ヴァージンのほうが快適だった。日本人の客室乗務員がいるっていうのも大きかったが、他にも、配布された「お泊まりセット」も小じゃれてたし、フライト中に、インドネシアの津波の被害への募金を募ったり、あと良かったのはビデオが「オン・デマンド」だと言うこと。いつでも、映画を冒頭から見ることができるし、トイレに行くときは中断できる。
 ちなみに、やっと余裕のできた機内で、ボーディングパスの半券を見ると、FFPNo. の欄に「27」と書き込まれてあった。FFPが何の略かわからないけれど、わざわざ書いてあるってことは搭乗ゲートナンバーだったのだろう。それがわからないほど、酔っぱらっていた私。前回に書いた時差ボケ解消作戦には、こんな落とし穴があります。お気をつけ下さい。

 さて、ロンドンまでは13時間の空の旅。
 予定どおり、まずは、出発時刻のロンドン時間深夜3時から、ロンドン時間で朝の8時まで睡眠を取る。そして、起きたらお仕事。
 鞄の中には「アワハウス」の英語版の台本と、青井先生の第一稿が入っている。
 何しろ日本では多忙すぎて、台本に登場する地名とか、モニュメントとか、駅とか、などなどをチェックする時間がなかった。飛行機の中でそれをチェックし、旅行日程を作ろうという魂胆なのだ。
 私は、英語版の台本を見ながら、辞書をひきひき、登場する地名などにアンダーラインを引いていく。そして、旅行ガイドの地図と照らし併せて、該当する場所にしるしを打っていく。
 なるほど、ほとんどが、カムデンタウン、そしてその北のハンプステッド、そして南へ下ったロンドンのウエストエンドあたりに集中している。これなら、今回の日程でも全部回れそうだ。
 カムデンは、台本に出てくる「運河の水門」そして「カムデン・ロック・マーケット」を見ようと思っている。前回のロンドン旅行でカムデンには行ったが、この二つは素通りしてしまったのだ。
 さて、マーケットはいつ見ようかな? とページに目を走らせていると……。
 ぎゃあーっ! またまた大ピンチ!
 まだまだ度重なるピンチの連続の詳細は、次号!


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