1. いきなり「石川です」って電話が……
2. 「あなた共犯者になって」
いきなり「石川です」って電話が……
  
――なぜG2に?
石川
 まさに「感じるままに」(笑)
G2
 直感だって、おっしゃってましたからね。
石川
 わたし、芝居のチラシをいつも見てるの。なんかおもしろいのないかなーって。スケジュールを調整しながら、行けるものは観て歩いてるんです。
 それで去年の12月に『8人の女たち』を拝見して。女優さんのオンとオフを見せてくれるおもしろい演出だなーと。もちろん物語を見せる演出のおもしろさも感じたんですけれど、そこに立っている女優が、どう変化するとか、反応するとか、これだけの8人の女優を操り人形のように操って見せる人って、どんな人なのかしらって。
G2
 僕は石川さんがいらっしゃったときに、東京にいなかったんですけど、(加賀)まりこさんから電話がかかってきて、公演でなんか問題があったかと思ってちょっとドキドキして「どうしました?」って聞いたら「石川さゆりがあんたのこと探してるのよ。どこ行っちゃったのよ!」(一同笑)
石川
 それでG2さんの電話番号を教えてもらって、直接、電話させていただいたの。
G2
 ふつうは事務所からうちの事務所に電話がかかってきて、で、会いましょうかってセッティングするものなんですけど、いきなり「石川です」って電話がかかってきたので、(心の中で)「えっと、石川って知り合いはいないけれど……」(一同笑)
石川
 そうなんです。それで「一度お会いしたいんですけど」ってお話をして、最初にお会いしたときに、「わたしの40周年のステージを一緒につくってくださいませんか」というお話をしたんです。
  
――その話を聞いたとき、どう思いました?
G2
  俺にはきっと関係のない話だなー(一同笑)。それはまあ、言い過ぎですけど……石川さんはやさしい方なんですけど、ある種の威圧感があって、ヘビににらまれたカエルじゃないけど、逃げられないみたいな(笑)。「スケジュールが厳しいんです」とか「40周年のような集大成を僕なんかが」とか言ってるのに、いつのまにかやることになっていて、不思議です(笑)。
石川
 集大成って言うのは、わたしは好きではないんです。集大成はやめるときでいい。進化っていうと、ちょっと恥ずかしいけど、変化していける間は、ずっと歌いたいと思うし、その途中に40周年というのがある。集大成じゃなくて、40っていう区切りのいい数字で、ゼロなの。ここからまた始まるのよ、という気持ちで、その思いをG2さんにお話しさせていただいたんです。この新しい出会いも、そういう始まりだと思ってるんです。
  
いまにつながるなにかを求めて
  
――変化を求めている石川さんに、どんな新しさでこたえます?
G2
  なんでしょうね……新しい石川さゆりをつくるって力んでもよくないだろうし、僕がかかわること自体がきっと新しいことなので、自分が思うことをどんどん言っていくことだけでも、ずいぶん変わるでしょうし。でも、なんかクリエイターが存在して、石川さゆりがそのとおりやってるというような、操り人形のようなものではないほうが、絶対いいので、アーティスト石川さゆりを、僕というフィルターを1回通すことによって、いままでとは違うものになると思う。
  
  
 たとえば、このチラシも、「チラシどうしましょう」って言われて、「あ、チラシも僕がかかわるのか」とびっくりしたんですけど(笑)、石川さゆりとの仕事にノる人といったら誰だろうと思って、その場でガクちゃん(G2作品の宣伝・パンフを多く手がけているアートディレクター・東學)に電話して引っ張ってきたんですけど、そういうことが僕の役目なのかな、と思ってるんです。この音楽会のタイトルを「感じるままに」にしたのも、石川さんがいま何を感じているかということが、伝わる舞台になればいいなと思って……歌芝居というのは、ずっと石川さゆり音楽会でやってこられたもので、簡単にいうと、コンサートのなかでやっている、ミニミュージカルのような独り芝居なんですが、その台本も書かせていただくことになって、どんな話にするか何案か出したんですけど、「それも素敵よねー」と言いながらも、首をたてには振らないんですよ。
 で、ある日突然、「樋口一葉はどうかしら」って電話がかかってきて、その言い方に、確信犯的なものを感じたし、僕としても、樋口一葉というのは一度どっぷりつかってみたい世界だったので、これはちょうどいいや、と思って、一葉を読破とまではいかないまでも、相当読みましたよ。日記は全部読みました。おかげでいままで知らなかった一葉の世界を知れた。台本を書くのは、その一葉の世界と石川さゆりの世界とをつなぐパイプをつくるという、おもしろい作業でしたね。
  
――石川さんが一葉をピックアップされたのは、どうして?
石川
 なんなんだろうなー……毎日くらしてるなかで、お告げじゃないけど、ふっと自分のなかで「これ、おもしろい」って、引っかかるものがあるんですよ。それは、いまを生きているなかで感じるなにかがあるんですよね……なんて言ったらいいんでしょうね……もしかしたら、一葉の時代といまの時代って、すごく似てるのかも。
 みんなの心の渇きかたとか、さみしさとか、共通するものがあるような気がちょっとして。
 わたしは、歌やエンターテインメントっていうのは、どんなにいいお話でも、その時代のなにかと引っかかる――それは棘のようなものかもしれないし、ふわっと風のようなものかもしれないけれど――なんか自分にハッと思うものがないと、いい作品と感じられないと思う。
 それは、わたしがいままで歌を歌ってきたなかで持ってる感触なんです。だから、逆に言うと、この「一葉恋歌」をいただいたときよりも、いまのほうがそれを感じる。
G2
 負け組、勝ち組みたいなことが激しいのは、明治の一葉の時代といまとすごく似ているんですよ。一葉は、その負け組に入っていて、商売に失敗して借金まみれでどん底まで落ちたときに、そのどん底で生きている人のことを描こうとしてる。最近の作家が、どん底の若者の世界を描こうとしてるのと、似てるものがあるような気はする。
1. いきなり「石川です」って電話が……
2. 「あなた共犯者になって」