1. いきなり「石川です」って電話が……
2. 「あなた共犯者になって」
「あなた共犯者になって」
  
――劇中歌を山崎ハコさんが書かれてますよね。
G2
 それも、突然おっしゃったので、ピーンと来たみたいですよ(一同爆笑)。
石川
 ハコちゃんがね、アルバムを送ってきてくれてね、それを夜聴いてて、「これって一葉の世界!」って思ったの。なんていうのかな……暗さと、なにかをつかもうとするエネルギーと、弱いような強いような激しさ、っていうのかな……わたしのなかでビビビって来て、ご相談したんです。
G2
 ハコさん、って言われたときに、同じようなことを感じました。
石川
 それに詞と曲がバラバラじゃないほうがいいと思ったんです。歌謡曲の作詞部門の先生、作曲部門の先生ってなると、分業になっちゃっうでしょう。今回のような作品では、少ない人数で世界観を共有できる人と、と思ったので。ハコちゃんとは、これまでつきあいはなかったんですけど……
G2
 それをあとで知って、あぜんとしました。「ハコさんは、どう?」って言われたときに、てっきりツーカーの仲だと思ったので(一同笑)。
石川
 この人とだったら、一緒につくる仲間になれるなっていう、直感なんです。上だとか、下だとか、遠慮するとか、というのは、ものをつくるときにジャマなので、わたしは、一緒につくる仲間になれる人としかやらないんです。
G2
 たぶんね、漁師が空を見て「こりゃあシケるな」って言うのと近いと思う(一同笑)。40年、芸能界にいて、インスピレーションというヤワな言葉では表せない、むしろ漁師の潮を見る直感みたいな……
石川
 (爆笑)そうかもしれない。でも、いまのところ、その勘はまちがってないですよね?
G2
 僕を選んだことを、あとで終わってから「まちがってたわ」って言われても困りますからね(一同爆笑)。
石川
 40年って月日って、楽しいこともいっぱいあったけど、悲しい別れもいっぱいあるんですね。この数年で、わたし、ゼロになったんです。35周年というのをやったときは、吉岡治さんも、阿久悠さんも、三木たかしさんもいたし、友達では筑紫哲也さんもいて、ワイワイやっていたのに、みんな天国へ行っちゃった。。それで、新しい出会いっていうのに、わたし自身も渇望してたんです。願いはかなう、探していれば、出会えるんだと思いながら、今回もこの音楽会に向かってるんです。
G2
 僕が口説かれたときに、「最近、共犯者がいないから、あなた共犯者になって」って言われたんですよ。
石川
 そうそう。「事件」を起こすの。そのためには共犯者がいるでしょ? 阿久悠先生が言ってたの、みんなが集まると「共犯者そろったね」って(笑)。
  
――新しい共犯者に選ばれたわけですね?
G2
 そう。でも、おれに起こせるかな、事件。小心者だからなー(笑)。
  
何度やっても新鮮な歌、新鮮な芝居
G2
 石川さゆりさんといえば、たとえば「天城越え」をいま聴いても、いちばん最初に聴いたときの感動が届いてくる。持ち歌を長く歌っている人って、いつしか崩して歌うっていうか、だんだん譜面通りじゃなくなってしまっているというか「あれ、こんな歌だったかな?」という違和感を感じて、結局は歌い手が飽きているのが伝わってしまうことがあるんですけど、石川さんには、それがいっさいない。そのことを、お会いした最初のころに言ったら、「あたし、飽きないの」って。これはすごいなーと思って。この言葉を、すべての役者に聞かせたい。
石川
 詞とメロディーは、いただいたときから変わらないし、歌い方も変わらない。変わるのは、生きているわたし。わたしが生きて、変化していくだけなんです。
G2
 それは、難しいことで、多くの人はやっていくうちにテクニックになってしまうんです。
石川
 それって、イヤじゃないですか。「津軽海峡・冬景色」って十代のときの歌なんですよ(笑)。同じ「あなた」でも、十代の石川さゆりの肉体から発せられる「あなた」と、50を過ぎた石川さゆりの「あなた」は、それだけで聞く人の印象も十分違うはずなんです。
G2
 ちょっと話がずれるかもしれませんが、この間『ラ・マンチャの男』を観に行ったんです。1200回! と思いながら。ところが、全然1200回やってる感じじゃないんです。(松本)幸四郎さんの芝居がまったく型になってない、っていうか、自由奔放でかつ新鮮な芝居なんです。テレビでドキュメントをやっていたのを見てて、「これか!」と思ったのは、幸四郎さんがまだ染五郎だった時代に、お父様に「同じ芝居を何回も重ねてやってるうちに、うまくなってってると思ってるだろう。違うんだ。役者っていうのは、やればやるほど下手になるんだ。それを注意しなきゃいけない」と言われた。そのことがずっと頭にある、っていうのを聞いて、なるほどと思ったんです。新鮮に誰かのセリフに驚いたりしている、1200回もやってるのに。すごいんですよ。石川さゆりさんの歌って、なんかそれと似てると思う。
石川
 今回、書いていただいた言葉を、自分の肉体に中に溶かして、自分のものにして、本当にこの体とこの口から出るようにできるかが、わたしのテーマだと思うんです。
G2
 ニューアルバムを聴かせてもらったんですけど、いまだと、バックの演奏を先に収録しておいて、歌をあとから録音するじゃないですか。その歌入れも何パターンか録って、いいとこをツギハギしたりもするでしょ。ビックリしたのは、石川さんは、演奏も歌も一緒に一発録りなんですよね。
石川
 ダメなところは録り直したりもしますけど、わたしは同録(同時録音)が好きなんです。そうすると演奏する人も歌を聴いて演奏するから、お互いにちゃんとそこで感じてる世界があるんです。演奏を録ったものに合わせて歌うのは、置いてけぼりじゃないですか。
  
そのときでなければ感じられないもの
  
――じゃ、ライブはお好きなんですね?
石川
 大好き……そのときにしかないもの、ってあるから。消えていくものの迫力って、ありますよね。だから、ミュージシャンとも厚い信頼があって、「石川のスタジオはおもしろいよね」って言いながら集まってくださる。
G2
 僕がミュージカルでご一緒するミュージシャンからも「石川さゆりさんのところはバンドが良い」という評判を聞いていますよ。
石川
 うれしい。みんな、すごい素敵な仲間なんです。
  
――最後にいらっしゃる方へのメッセージを。
石川
 G2さんと石川さゆりが出会ってしまって、なにが始まるのか、みなさんに観にきていただけたら、うれしいなって思います。ぜひぜひ目撃者になってください。
G2
 僕なんかも、テレビで見るばかりだったんですけど、今回のお仕事を引き受けるので、石川さゆりさんのコンサートを何度か拝見して、すごくワクワクする部分があって、いままでファンの方たちプラス、若い人たちにも観にきてほしいと思うんです。
石川
 くるりに誘われて、野外ロックフェスに出たことがあるんです。
 出るのに躊躇したんですけど、若い人たちのロックフェスだからって違うことをやるんじゃなくて、いつもの石川さゆりを見てもらいたいとやったら、後ろのほうから地鳴りがするほど走ってきて(一同笑)。
 ビックリしたんだけど、けっこうみなさん、楽しんでくださったんですね。だから、まだお会いしたことのない方に、石川さゆりっていう歌い手を、観にきていただきたいなって思いますし、いつものお客様には、一緒に歩んできた40年を楽しんでいただけたらなと思います。
 わたし、いつも思うんですけど、舞台やコンサートって、人づてにどうだったか聞いても、わからないんですよね。自分がどうおもしろがれるかは、その場にいて、肌で感じないと。だから、ぜひ観にいらしてください。
1. いきなり「石川です」って電話が……
2. 「あなた共犯者になって」