——みなさんの役どころを紹介していただけますか。
篠井
 はい。えー……(間があいて、一同笑)
G2
 改めて言われると難しいよね。
篠井
 これで自分の役を把握してるかどうか、テストされるね(一同爆笑)。ミミ(篠井の役名)は、アメリカで育っている日系人で、2世ですね。両親が日本人の1世だから、ミミも日本語はちゃんとしゃべれるんだけど、わりとアメリカンな女。そうなってるかどうかは別として、そういう設定ですよね(笑)。アメリカにいた日系人で、戦中から終戦にかけて青春まっただ中だった女の人といったら、大変だったろうなぁと、思いますけど、元気な人ですね。
大谷
 僕は、終戦直後に、つてでアメリカに来た日本人女性ですね。二人(篠井と深沢の役)と出会って、一緒に暮らすようになった……そういう役ですね。
G2
 どれも根本的なことが言えないんだよね(笑)。関係性がのちのち明かされるという芝居だから。
深沢
 そうだよね……ベニィ(深沢の役)は、やっぱり日系人で、ちょっと特殊な過去を持ってて、この店(バー「紅や」)の名前にも由来する、えー……(それ以上説明できないとあきらめて)人です(笑)。
G2
 なんでこの3人が一緒にいるんだろう、というところからスタートして、それがどんどん明かされていくというのが、おもしろい舞台なので、なかなか役どころを明かせないところがあるんですよ。
——3軒茶屋婦人会の4作目となりますが、今回の演出のテーマは?
G2
 あくまでも、3軒茶屋婦人会&G2が演出なので、僕は、いつもあんまり決めてこないんですよ。手抜き工事みたいな言い方になりますけど(笑)。ふだんだと稽古初日には全部、自分の演出を固めて、なるだけ、それをやってもらおうという感じなんですけど、ここ(3軒茶屋婦人会)の稽古初日は、ある程度の準備はするけれど、みんなが、もらった本や、やろうとしてる本について何を言うかな、どんな反応をするんだろう、っていうことを見ていて、稽古何日目かに、やっと「今回はこういうラインかな」っていう固まってくる感じなんです。そういう意味でいつも(演出プランが)どちらへ行くかわからないんですけど(笑)。
 今回は「着物を着たい」ということがスタートだったのに、なぜか舞台がニューヨークで(笑)。
篠井
 そうそう。でも、みんなで「ちょっと着物を着たいね」っていう単純な発想だったのに、一筋縄で行かないことに結局なったんですけど(一同笑)。思った以上に手強い、というのが正直な感想です。でも、4人でがんばって積み重ねてきたので、もうひと踏ん張りして、濃いものにしたいですね。とてもお芝居らしいお芝居だと思うんですよ。ドラマチックなところもあるし、目先もどんどん変わるし、商業演劇としてもいけるかも、っていう内容なんです。華やかさもありつつ、深い内容で、ぐっとくるものになっていればいいんですけど。
——稽古を見てると、すごく繊細なつくり方をされていますね。
深沢
 私はスロースターターなので、先輩たちに迷惑をかけてるんですけど。おしりをたたかれながらも、ようやくなんか「ああ、そういうことか」と光明が見えてきた感じがしますね。
——稽古を楽しんでらっしゃるように見えますが……
深沢
 けっこう、つらいんですけど(一同爆笑)。
大谷
 楽しそうにしないと、できなくなっちゃうからね、お芝居は。どんなにつらくても。
深沢
 そうそう。楽しまないと、できない。でも、言われて「ああ、そうなのかぁ」って思うことが多くて、それをやってみると、セリフや動きがすごく楽になるんですよ。そういうところは、すごい楽しい。ホントはね、「それぐらいのこと、言われなくても、自分で気づけよ」「すいません」って感じなんですけど(笑)。
大谷
 気持ちが「ハァ〜」って落ち込んでしまうと発想も出てこなくなる。そのハードルを越えて、なんとか自分の身につける、っていう心意気だけはキープしようと思ってますね。ただ、今回の芝居は、時代も飛べば、場所もニューヨークで英語もちょっと出たりとか、物理的にこなさないといけないことがけっこうあるんです。そこに負けないで、本番では、人生とか人間を考えるきっかけになる演劇になればいいな、と思います。
G2
 最初に台本を前にして、どういうふうにしましょうか、って聞くと、「ホントは(登場人物たちは)英語をしゃべるはずだよね」とか、3人が自らどんどんハードルを上げていくんですよ(笑)。僕が「英語にしましょう」「歌も入れましょう」って言ったわけではなくて、みんなが、こんなこともやりたいと言うんですよ。芝居での、達成ポイントをできるだけ上げたいっていう気持ちがあるんですよね。だから、やらされてる感じはないんだろうけど、上げてしまったハードルを跳ばなきゃならなくて、それが大変なんですよね。
大谷
 3軒茶屋婦人会の場合は、いわゆるプロデュース公演のように与えられた役をちゃんとやる、っていうだけではなくて、この芝居をどうやってつくるのかとか、どこに向けて舵をとっていくのか、ということも大切なことなので、負担もありますけど、やりがいも大きいんです。
G2
(篠井)英介さんがよく「もうこの年になるんだから、半端なものは見せられないじゃない」っておっしゃるんだけど、底辺にはそれがあるんですよね。
——すでに実績も積まれているのだから、そんなに無理をしなくても、と思うこともできますよね。そうではなく、もっと高みをめざすのは、なぜなんでしょう?

篠井
 自分ではあんまり意識してないんだけど、そうなっちゃう。ね(うなずく大谷、深沢)。欲深いっちゃあ、欲深い。G2さんがさっきおっしゃったけど「おまえら、勝手にハードル上げちゃってるんだぞ」……
大谷
 そうそう! 俺も「そう言われれば、そうだ」って思った(笑)。
篠井
 自分たちでは、ハードルを上げようって思ってるわけではないんだけれど、「こうやったほうがおもしろい」「こういうふうにしたほうが楽しいかもしれない」「こういうのがワクワクするね」ってなことを探していくと、どうしても、そういうことになってしまう。いいことだとは思うんですけど……
大谷
 この間の地震で、いま節電してたりすると、「ああ、いままで楽してたんだ」って思うんですよね。地震が起こる前は、不景気とはいえ恵まれた日本に生きてたんだと。この3軒茶屋婦人会で、3年に1回集まって、楽じゃないところに身を置くということが、大切だと思うんです。ハードルを乗り越えて、僕らががんばったことが、お客さんになんかの形で伝わるものになればいいな、と思いますね。
——たいへんな時代を生きた姉妹たちの話ですが、コメディーの要素もかなりありますよね。
G2
 僕は、「ここで笑いをつくりたい」とか、ぜんぜん思ってないんですよ。ただ、人が笑うのが好きなので、そちらのほうに誘導しちゃってるかもしれないけれど。今回の話だと、この3人がどういうふうに向かい合い、そのズレや人間関係がどうすれば、よりくっきりとして、おもしろいものになるか、ということをやっていくと、それが結果的に笑いにつながってると思う。最初は確かに、こんな人間がいたらおもしろいな、痛快だなと笑っていたんだけど、僕は、今日の通し稽古を見ていて、3人がすごく愛おしく見えたんです。登場人物ひとりひとりを抱きしめてあげたいと。これはいい方向だな、と思ってるんです。
篠井
 僕は、こんなことを言うとアレだけど、お客さんがどう思うかよりも、自分らが充実して、「やれるだけのことをやったなぁ」と満足しないといやなタイプなんです。受け取るのは、お客さんそれぞれだから。いい年をして中途半端なことはしたくない、っていうのも、お客さんに対して、というより、自分に対して許せないだけなんですよ。でも今回は、最初「ちょっと楽をしようかな」って思ってたんですよ(一同笑)。「大変だから、ほどほどにしとくか」って思ってたんだけど、やっぱりダメなんですよね。自分の人生の2カ月ほどを費やすわけじゃないですか。いつどんなことになるか、わからない世の中じゃないですか。いまこの瞬間しか、ホントにないんですよ。そう思うと、やっぱり精一杯、自分が納得できるように、しておかなくちゃいけない。変な話、このまま公演ができない、稽古だけで終わっちゃっう、ってこともあり得る状況だったんですよ。だから、稽古の充実感だけは自分の中にあるようにしよう、そして一緒にやってくださる仲間も、そう思ってくだされば、それで十分という感じです。


——役どころの3人と同様、みなさんご自身も長いつきあいですよね。

篠井
 でも、あんまりベタベタしないですよ。僕なんかお酒を飲まないので、いつも「はい、失礼します。お疲れさま」って、さっさと帰っちゃう。
深沢
 そうそう。長いつきあいだけど、ぜんぜん電話もしないの。メールも1年に4回ぐらいですよね。
大谷
 うん。たまにメールするぐらいだね。
深沢
 公演があって、見に行くし、来てくれたりで、終わった後、ちょっとごはんを食べるぐらい。
——芝居を見ていると、ものすごく濃いつきあいをされているように見えますけど……
深沢
 3人しかいないから、1人でも迷惑をかければ、それでダメになっちゃうでしょ。それは感じてますよね。
大谷
 舞台で見せられるのは、3人の中でのやりとりだけだから、実生活よりもすごく濃いやりとりをしないと、お客さんに伝わらないと思うんですよ。ものすごい集中力で、いろいろなことを思い浮かべながらやらないと、伝わらないので、それは常に意識してますね。
——その濃い芝居のなかで、お気に入りの場面を紹介していただけますか?

篠井
 ジュン(大谷の役名)が、老いらくの恋に落ちるんですよ。ハラハラドキドキで見守る親友っていうシーンはいいですよ。それを、おじさんが演じるんですから。かっこいいですよね。
深沢
(大谷に)また、ちょっとハードルが上がりましたね(一同笑)。
篠井
 あそこは自分が出てないから、のんきに見ているんだけど(笑)、この芝居の白眉だなぁって思いますよ。
深沢
 僕の見どころは、ナマ着替えがありますんで、それを見ていただきたいですね(笑)。
大谷
 僕はまだ、どこが見どころ、って言えない(一同笑)。舞台はこの酒場だけなんだけど、戦争があって、それから現代まで生きた女たちの話なんで、彼女たちが生きてきた社会のことも、うまくやれば、お客さんがイメージできるんじゃないかと思うんです。そこがおもしろい。戦争と人間って、大きなテーマじゃないですか。お客さんも(この舞台から)いろんなことが考えられるんじゃないかと思いますね。
G2
 戦争と人間をテーマにしているものって、古今東西にいろいろあるんですけど、今回のお芝居のそのテーマに対するスタンスの取り方が、僕、けっこう好きなんです。
深沢
 そうだね。なまなましくはないもんね。
篠井
 うん。距離があるからね。
G2
 戦争がかつてありました。そこで一人の男が死にました。さあ、そこから何がどう残っていくのでしょう。と、いうスタンスが好きだし、そのいい距離感が芝居にもよく出てるんですよ。
篠井
 時間は逆行するんですけど、おじさん3人が、二十歳ぐらいから70まで、女一代記を演じるわけですから、それは最大の見ものですよね。
G2
 衣装とカツラをつけた通し稽古を初めてやったときに、英介さんの老婆を見て、ちょっと泣きそうになったんですよ。この人、もう少ししたら死ぬんだな、っていう「哀れ」がふわーって出てて……。そこからスタートして、場面ごとにみなさんが着実に若返っていくのがビビッドに伝わってきて、おもしろかったです、見てて。
篠井
 じつは、若返れば若返るほど、疲労感が増して、ヘトヘトになっていくんですけど(一同笑)。
G2
 時間が逆行するので、最初、わけがわからないっていうので、稽古を、ラストシーンから時間軸に沿ってコツコツつくっていったんですよね。
大谷
 最初は大変でしたよね、なんにもわからなくて。人生を表すのに、逆順でって、稽古が始まったときは、アイデアだけになっちゃうんじゃないか、って思ったんですよ。でも、人間って、自分のことは記憶しかないじゃないですか。記憶をたどるということで、本当の自分が見えてくる。時間と逆にやる、僕らの芝居を見ているうちに、お客さんがご自分の記憶をたぐっていくみたいなふうになるといいなぁ、と思うんですよね。
篠井
 そうだね。そうなるといいね。
G2
 さっきも言ったけど、このお芝居は、二人の英語劇があり、ナマ着替えがあり、歌もあり、場面と場面の間は役者が一人ずつ舞台に残されて、何分間かの時間と空気を埋めなければならないとか、振り返ってみると、ものすごく盛りだくさんになってるんですよね(笑)。稽古でやってることの多くは、すごくリアルな芝居の追求なんですけど、お客さんからすると、けっこういい感じのエンターテインメントに……
篠井
 うん。なってると思います。エンターテインメントをやって、楽しければいい、っていうだけじゃなくて、G2さんがやってくださってるように、きちんと人間が嘘なく描かれているっていうのを、ここでやりたいですね。
——最後に、観に来られる方へメッセージを。
大谷
 僕らも4回目で、これまでいろいろやってきたことを、これに注いで全力でやりますので、ぜひ観に来てください。ホントにこの先、いつできるかわからない、っていう状況じゃないですか。東京、大阪、北九州のお客さんに今度いつ会えるかわからないので……
G2
 暗いなぁー(笑)。
篠井
 お別れ公演みたい(笑)。
大谷
 そういうつもりでやりますので、ぜひ見届けてほしいという気持ちですね。
深沢
 3年後に、「お前ら何回も来るんじゃないよ」って言われたりして(一同笑)。
篠井
「これが最後、みたいな顔して、また来やがった」って(一同爆笑)。
深沢
 ホントに稽古場も毎日、揺れてるんですよね。本番でも安全面には十分気をつけて、ビンが倒れても直しながらやれるようにしておきますので(笑)。
篠井
「こんなときに歌舞音曲をちゃらちゃらやるんじゃねえよ」とか「劇場なんかで、電気を使ってるんじゃねえよ」っていう批判がある方もいらっしゃるでしょうけど、少なくとも、生身の人がやってるところに価値があるというか、そこにしか拠りどころがない感じがあって、いわば観に来てくださる方と運命共同体なんですよ。だから、来てくださる覚悟に応えなきゃならないし、生だからこその元気づけとか、生で見るからこそ得られるものを僕らは担うんだということを心立てに持って、やるしかないんだよね。「生身で、いろんなことが起きますけど、少なくとも、一生懸命、ここで一緒に生きてますから」っていうのをお見せするしかないんだろうね。
深沢
 杉村春子さんにインタビューをしたときに、「戦争中、空襲が来ると、みんな防空壕に行っちゃうんだけど、劇場に戻ってくるのよ」って。「だから、芝居を続けたわよ。そんなときでも、観たい人は観たいのよ」って言われたのよ。そのことをすごく思い出しますね。だから、いらないもんじゃないのよ、演劇って。
大谷
 ムダだって言われたら、僕らのやってる芝居なんてムダでしょうし、僕なんかムダの代表です。でも、ムダこそ人生の喜びじゃないですか。
G2
 最後に、地震から離れて、この3人のことを話したいんだけど、最初から、この3人って、いいバランスだなって思ってたんですよ。でもね、いろんな作品をすればするほど、この3人がよく集まったな、と思うほど奇跡的な組み合わせなんですよね。稽古中のアイデアの出し方も、うまく3人が補完しあって、いろんな方向から固めていくし、稽古が行きづまってくると、誰かが楽しいことをしてほぐすし、ほぐれすぎたら誰かがビシっとしめる。そんなことも含めて、奇跡的な組み合わせなんです。だから、これを見逃すのは、ホントに損だと思いますね。ぜひ劇場に、生のこの奇跡の3人を観にいらしてください。