映画でサイコーなのはモンティ・パイソンの『ホーリー・グレイル』。下敷きはキリストの聖杯を探すアーサー王の伝説だけど、そこはモンティ・パイソンだからふざけまくりで。森の番人として「”ニッ”の騎士」っていう3mの巨人がいるんだけど、コイツが「ニッ、ニッ」って言うのを聞くと、なぜか冒険者が苦しむんだな(笑)。これは今まで知る限り最強のキャラだね。自分の書く冒険物にもかなり近い。この監督をしているテリー・ジョーンズは、僕にとってすごく大切な人。学生時代、コメディ関係でものを作る仕事に就きたいけど方法が分からずすごく悩んでいて。それで大好きだったモンティ・パイソンのテリー・ジョーンズに手紙を書いた。彼は当時、映画『ラビリンス』の脚本を書いていて(日本ではコケたけど結構好きだった)、その映画会社宛てにね。それが驚くほど長い返事をくれたんだ。その時欲しかった言葉がすべて書いてある手紙。お陰で悩みは解決し今の自分がいる。恩人だね。

 「森の中には魔女が棲む」という、キリスト教圏で絶対の伝承を巧みに映像化した『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』もよく出来てたと思う。自分自身、偽ドキュメントとか作っちゃう奴なんで1本目はかなり面白がって見た。ただ、ホラーの評価は文化圏によって違うでしょ。怖いものがその国ごとに変わるから。だから『ブレア〜』は賛否両論だったのかも。大好きな映画『死霊のはらわた』の中でも、森に逃げ込んだ女性が木にレイプされる場面があるんだけど日本人の目にはそれほど怖いと思えない。でも西欧では”木が襲う”って話、他にも結構見聞きするから、やっぱり怖いんだろうな。

 ファンタジックなもので言えば、ミュージカル映画『オズの魔法使』も良かった。あれ、いい話でしょ。竜巻に吹き飛ばされて不安で不安でしょうがない少女ドロシーが、心を探すブリキの人形と頭脳が欲しいかかし、勇気を持ちたいライオンと旅する。3人が一生を懸けても欲しいと思っている物を、か弱い少女は全部持っていて、そのことで勇気づけられて成長していくんだよね。しかも最後の魔法使いの登場シーンが傑作。すごいきらびやかな演出のあと、背広着て出てくる、「どうも、オズです」みたいに(笑)。あれは今回の「王」のキャラに通じるものがある。

 こうしてみると、やっぱり日本には「森」を感じさせる作品が少ないなぁ。例外は宮崎駿の『もののけ姫』か。あの映画には、日本に有り得ないような深い森が見事に描かれている。ちゃんと神様やもののけ、いるし。『風の谷のナウシカ』の腐海にもそういうイメージはあるよね。


 これからもきっと、芝居の中に「森」を登場させる。今回リメイクをやってみてその面白さを再認識したから。今度は新作で、森も海も渡るような冒険物をやる、近いうちに絶対。なんかもう、無限にイメージが沸いてくるんだな。やっぱり「森」はそういう所なんだろう。

 自分自身にそんな深い森に行った体験ってないんだけど…。いや、近いものはあるか。何せ山形県山形市で育ってるから(笑)。県庁所在地とはいえ自転車で15分も走れば、どこかしら山に着いていた、森じゃないけど。ランドセルに必ず鈴を付けさせるんだ、クマ避けに。クマと会ったときの逃げ方とか、学校で教わるんだから。「野犬に襲われて親子が殺された」なんて場所が近所だったり、工事現場でカモシカに襲われた話なんてのも珍しくなかった。ニホンカモシカは賢くて、人間が自分たちより少ないときを見計らって襲うんだな、群れで。でも抵抗できない、天然記念物だから(笑)。そういうものにビクビクしながら、学校通うっていうのも結構特殊な体験だよね。自分の中にある「森の中で何かの目が、いくつもギラギラ光ってる」ってイメージは、当時の原体験から生まれているのかも。

 霧も、怖い思いしたんだ。子供だけで日の出を見ようって夜中2時ごろ出発して山に登って。それが山頂間近で凄い濃霧に包まれたんだ。目の前の友達の顔も見えない。泣き出す奴はいるし。リーダー格の友達が「助けは絶対来る。見つけてもらえるように歌おう」とかって励まして。危ないからしゃがみ込んで、全員で手をつないで歌ってたらサーッと霧が晴れた。「ブッブー」って音に振り返ったら、駐車場のド真ん中だったんだよ(笑)。子供ながらに恥ずかしかったけど、今回の冒頭にこの体験生かされてるな、嘘じゃない。別にアウトドア派じゃないけど、こういう体験はしておいたほうがいい。子供なんか山でほったらかせば、そこでいろんなことを学んで来る。森に光る目や闇、霧の恐怖を知ってるかどうかで、その後の人生の面白さ・怖さは全然違ってくるはずだからね。


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※このインタビューは2002年の『ダブリンと鐘つきカビ人間』の
公演パンフレットに収録されたインタビューの再録です。