ーーーミュージカルを自ら書き下ろして演出するのは初めてですね。
この作品でやろうと思っているテーマ、目標を聞かせてください。


 6年前、初めてミュージカルを演出してからというもの、ずっとオリジナル・ミュージカルを作りたいという想いは抱き続けてきました。いつかきっと、というスタンスでしたが、焦り始めたのは最近です。韓国がミュージカルを輸出しはじめたからです。韓流ドラマ、K−popと来て、ついに演劇まで韓国に席巻されるようなことがあっては悔しい。負けたくない。そんな気持ちが最大限に盛り上がったときに、このお話を頂きました。正直、オリジナル・ミュージカルを作るには期間が足りないという不安はありましたが、とにかく、今、自分の持てる力をすべて注ぎ、小さな劇場から第一歩を踏み出したくて、動き始めました。

 今、必死になって台本やら、詞やら、そして曲作りに取り組んでいる最中です。すでに素敵な曲が何曲もできあがっています。着実に作品の全貌が見えつつある段階に入ってきています。

 目標は、物語と音楽の融合。テーマは……ひと言では言えないんですが、人はどんな絶望の底からも立ち上がることができる。しかも笑顔を失わずに、ということでしょうか。魂をゴシゴシと乾布摩擦するようなお話しになるはずです。

ーーー出演する橋本さとしさん、新妻聖子さん、堀内敬子さんは、前に一緒に仕事をしていますが、そのときの印象を。(白洲迅さんは、客席から見た印象を)

 最高のメンバーが集まってくれました。まさに少数精鋭です。さとしはとても情熱的。小細工は一切なし、どんな音楽にもロックフィーリングで接し、そして芝居も手抜きのできない男。日本よりも海外の演出家にウケがいいのは骨太だから?
 新妻聖子とは、もうこれで早4回目。とにかく気持ちを大事にする人で、研究熱心。意見交換にも熱が入り歯に衣着せぬトーク。その明るさは稽古場にエナジーを与えてくれます。
 堀内敬子さんは、ピュアでクリアな感性の持ち主。涼しいんです。彼女の周囲だけが妙に。ぜひ悪女をやってもらいたいのですが、今回はコメディ部分を担当。きっと絶妙な芝居空間を作ってくれるでしょう。
 白州くんはオーディションで会いました。「これから」の人ですが、とても好印象。このカンパニーに新鮮な刺激を与えてくれることでしょう。

ーーー音楽の荻野清子さんとは、『リタルダンド』でタッグを組みましたが、印象は? また彼女の音楽の魅力は?

荻野さんは『Nine』の音楽監督、『COCO』再演のアレンジと演奏、そして『リタルダンド』では作曲と演奏。これらの活動を通して「なんて音楽性の高さと感性の豊かさを合わせ持った人」という印象です。ミュージカルへの愛も深いので技術的にはなんの不安もないのですが、それプラス、微妙なニュアンスを音楽で表現できる、という強みがあります。僕の凡庸な詞も、彼女の手にかかれば、メロディと融合してとても感動的な言葉に見えてくるから不思議。演奏も彼女のピアノ一本というシンプルな形ですが、あなどってはいけません。中途半端なミュージシャンが5人いるよりは荻野さん一人のほうがクオリティーが高い。独特のハイセンスな和音の響きが素敵。今回も素敵な曲が着実に上がって来ています。詞を先に作ったり、曲を先につくったりしてもらいながら、微調整を繰り返す。ほんとにオリジナルで作るってたいへん。だけど楽しい。イメージ通りの、いや、イメージを突き抜けた楽曲があがったときは鳥肌もの。ちなみに僕は彼女のことをQちゃんと呼んでおり、GQコンビ、という名称を勝手に作っています。

ーーー『Bitter〜』に興味をお持ちのみなさまに、メッセージをお願いします。

 小さな劇場ですから、大オーケストラだとか、大規模な装置転換などはありません。
 でも、音楽と芝居が融合された空間の素晴らしさをとことんビビッドに感じてもらえるのではないでしょうか。
 歌では吐息も聴こえる劇場で、芝居では細かいニュアンスも伝わる空間で、ぜひ、お楽しみいただきたいと思います。