また行っちゃった! 都合3度目の連載となるロンドン日記。
出国前は「3度目ともなれば慣れたもんよ」とうそぶいていましたがはてさて?
毎度のように観たいお芝居をいっぱい計画してロンドンへ向かったG2。
行ってみれば今回も新発見の連続だった旅日記をぜひお楽しみください。
▼#1
「3度目」の旅のはじまり


▼#2
ZはゾロのZ


▼#3
コンプリシテ


▼#4
『テーブル・マナー』視察


▼#5
モンティ・パイソン


▼#6
ロンドンの日々より



 さて、お話はかなりもどって前回のロンドン到着の時のお話。空港からヒースローエクスプレスに乗りこもうとした際に「これはコネクトだけど、大丈夫か?」と言われ困惑したことを書いた。
 読者から「区間急行のようなものですよ」とお教え頂き、今回は間違わないように気を張っていると、いろんなところに「コネクト」というものが存在することが表示されていた。「このホームで良いか?」と係の人に尋ねても「ホームはこれで良いが、次の電車には乗ってはならない。その次の電車がエクスプレスである」と丁寧に教えてくれるようになった。きっと私みたいな人はその後多かったにちがいない。
 そういうわけでヒースローエクスプレスに乗り、終着駅パディントンには十数分後に到着。前回はここから地下鉄でホテルに向かったので、重い荷物での階段の上り下りに閉口した。
 今回は、もうケチってないでタクシーに乗ることにした。
ロンドン3回目にして初のロンドン・タクシー乗車である。


ロンドンのタクシーは大きな荷物も後部座席に載せるシステム。これは合理的。
タクシーの運転手さんも親切で私の「ラッセル・スクエア」の発音がRになっていないことをご指摘。「それだと、別のところに連れて行かれるよ」と丁寧に発音を教えてくれた。が、マスターできたとは思えなかったので、結局、私は夜、酔ってタクシーにのり「ラッセル・スクエアへ」というような状況は作ってはならないと自分自身をいさめたのだった。

 前置きはさておき、今回は、いよいよサイモン・マクバーニー作品を観劇したときのお話。
 バービカン劇場は、地下鉄バービカン駅の目の前のはずだった。

バービカン劇場地図(バービカンセンターHPより

 余裕をもって(と言っても私の場合、たかが知れているのだが)15分前に駅に到着したものの、劇場までは苦難の道だった。地図上では駅を出たら見えているはずの劇場の建物が見あたらない。公共の施設らしいので、派手なネオンサインも無い。それどころか、目の前には大きなトンネルが立ちはだかっている。地図が指し示す方向へ向かうしかない。途中で道を聞いたりしながら先に進むのだが、劇場への人の流れというものが全くみられない。通りは静まりかえっている。かなり不安になったが、なんとか総合アート施設のバービカンセンターに到着。

 センターに到着したと言っても安心は全くできない。劇場がセンター内のどこにあるのかを探し出すのに苦労した。建築デザインが斬新で何がどこにあるのかという建物全体のレイアウトを感じにくい。ネットでチケットを購入したよというプリントアウトを現券に引き換えなきゃならんのだが、普通の劇場に見られるボックスオフィス(チケット窓口)らしきものも見つからない。建物の中を走りまくってチケットの窓口をなんとか探し出したまでは良かったが、係の女性の英語が「真っ直ぐ行って左のなんとかのところをなんとかしてくれればなんとか劇場のなんとかに入れるであろう」としか聞き取れない。第一、チケット取扱のカウンターから劇場の入り口を説明するのに、なぜそんな長文になるのだろうか? と余計な疑問を解決している暇はない。この時点で開演1分前だ。文字通り、真っ直ぐ行って左の方向へ盲滅法に走っていたら、突然、視界が開け、劇場のロビーに出た。斬新すぎる建築デザインには断固反対したい。
 野田秀樹氏や蜷川幸雄氏も使っている劇場だというから、これを読んでいる皆さんも行かれる機会があるかもしれないが、ほんと、お気をつけ下さい。駅から座席まで15分で辿り着くことができたのは奇跡としか言いようがない。少なくとも30分前に駅に到着することをお勧めします。
 座席につくと開演前からパフォーマンスは始まっていた。(と、言っても一人の男がじっと立っているだけだが)演目名は『A Disappering Number』(シアターガイド誌では「消えゆく数字」と訳している)
 さて、奇才マクバーニーが本国でどんな公演を打っているのか? なにしろ私にとってそれは初体験であり、しかも本年度のオリヴィエ賞を受賞した作品のプレミア再演だ。期待しすぎてもしすぎることはないはず。

 結果を先に言えば、やはり期待を裏切らない素晴らしい公演だった。
 イメージの洪水。とてつもないイマジネーション。英語という言葉の壁はあったが、数学という概念を人間の生とからめ、未知の演劇世界へと強烈な吸引力で引き込む演出力。ただただ感嘆するばかりだった。惜しむらくは自分の英語力がもっと達者だったら、もっと楽しめたろうにということ。観客席はしきりに笑い声に包まれていたからだ。日本での『エレファント・バニッシュ』しか知らない私にとってはこれは意外。
 幕開きは、少々神経質的な女性の数学者がホワイトボードに難しい数式をものすごい勢いで書き殴りながら、数学の講義をする場面から始まる。なぜかその講義の合間にも客席から笑いがわき起こる。英語力の問題でなぜ笑えたのか理解できず。
 やがてジョージ・クルーニー似のインド系の男が現れて「こんなのお芝居であって全部ウソですよ」と暴露し始める。「これ壁に見えるけど壁じゃないし」といって壁をすっと押すと、装置の壁が両脇へするすると移動し消失する。「この数学者だってリアルじゃない。だって……(と数学者がかけていたメガネを取り上げる)……ほら、眼鏡にレンズが入っていない」とレンズが有るべき場所に指を貫通させて証明してみせる。(この間、数学者はめげることなく予備の眼鏡を装着し講義を続けている)「このホワイトボードだって本当は無いんです」とインド系の男がホワイトボードを上に押し上げると、そいつもスルスルと上昇して消失する。これで舞台装置は、骨組みだけになった。数学者はなんらめげることなく、ホワイトボードの後ろに隠れていたブラック・スクリーンにむかって板書を続けている。
 演劇としての最初の場面設定をぶち壊しにした男は「でもね、ここに椅子を置いただけでタクシーになったりもしますよ」その瞬間、数学者が板書を続けていたブラックスクリーンが縦方向に田楽返しになり、数学者は飲み込まれて消え、同時にインドの町中を走るタクシーの車窓からの映像が映し出される。あっというまに観客はインドへと連れ去られるのである。
 もう、そこからは、あれよあれよと言うまに見たことのない舞台演出のオン・パレード。次から次へとさまざまなイメージが現れては消える。
 題材も数学だし、何か高尚なものを想像されるかもしれない。(実際、やや高尚ではある)だが、観客席が間欠的にではあるが笑いに包まれている以上、これはエンターテインメントとして受け入れられている証拠ではないか?
 僕などは英語力の無さも手伝って、途中からストーリーを追うことをやめ、ひたすら眼前に広がるイメージの洪水を鑑賞するのに専念してしまった。そんな状況でもじゅうぶん鳥肌ものの舞台だった。

 終演後のロビーで長塚圭史と待ち合わせていた。ロンドン留学を始めたばかりの彼に、ロンドン留学2年目の金田一くんを紹介するためだ。きっとこの男は圭史のロンドンライフに役立つはず。
 ロンドンで会った圭史は少し精悍に見えた。金田一くんとはすぐに意気投合したようだった。この二人はきっと気が合うという私の見立てが的中したのは嬉しかった。
 さて、この金田一くん。男とは書いたが、大学院生だからまだまだ男の子という印象。けれど、歳の割になかなか面白いセンスの持ち主なんである。なにしろ血筋がユニーク。曾祖父がかの有名な言語学者・金田一京助氏。つまりはお爺ちゃんが春彦氏。三代続く言語学者の血を引く男なのだ。四代続くかどうかは彼次第だけれど、本人は今、ロンドンで演劇を勉強しているらしい。
 彼とは、以前にG2プロデュースにバイトに来ていた大学生・石井ちゃんのご学友という関係である。実は私なんぞより家内が金田一君の作・演出の舞台を観劇していたり、娘がフランス留学の折にロンドンを案内してくれたのが金田一くんだったりして、むしろ家族ぐるみのお付き合い。
 私としては彼が『アワハウス』を観に来てくれた時に飲みに行った以来で、これは4年ぶりの出会い。
 久しぶりに飲もうよという流れになったが、ロンドンの夜は早い。大抵の店が観劇後の時間には閉店してしまう。金田一くんの案内で地下鉄にのって二つ目のキングズクロス駅で下車する。ここはハリー・ポッターの世界へ通じるホームがあることで有名な駅
 パブでは金田一くんの話を一方的に聞くだけの私だった。今、何をしてるの? どういう活動をしてるの? このままロンドンに居残るつもりなの? もう日本には帰らないの? と、こちらが質問攻めにしたからでもあったが。
 ちなみに彼からは翌日に「サーペンタインギャラリーの外にあるパビリオンで、お昼12時40分からなんですけど、パンクファッションのヴィヴィアン・ウエストウッドのショーがあるらしいです。オノヨーコさんもそのあと来て、なにやらパフォーマンスをするらしくて。ギルバート&ジョージもどこかで出てくるみたいです。どちらも20分くらいだと思うんですけど、現代の芸術家がずらっと集まるイベントなので面白いと思います。ミーハーですんません」とご提案を頂いたが、すでに予定が入っていたのでお受けすることができなかったのが残念。将来の日本の文化をしょって立つやも知れぬ男がお勧めするイベント。ぜひ体験したかったのだが。
 「今までロンドンでは観劇ばかりだったので、今回はゴッホの絵でも鑑賞するべくコートールド・ギャラリーに行こうと思っている」と金田一くんに話すと「まだ行ってないなら、コートールドよりナショナル・ギャラリーに行かれると良いですよ」と推薦してくれた。
 話している間に終電が無くなったことを心配するも、金田一くんは「大丈夫ですよ。ロンドンはバスが24時間動いていますから」と本当にバスに乗って帰って行った。楽しい夜をありがとう。


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これはコネクトだけど大丈夫なのか?
前回、2006年にロンドンへ行った際、ヒースローエクスプレスの乗務員に訊かれパニックに!

















































 

バービカン劇場
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが本拠地としていた劇場。1,166名収容とのこと。





























































オリヴィエ賞
正確にはローレンス・オリヴィエ賞。1976年に設立され、毎年2月に選定される。イギリスで最も権威があるとされている賞。





『エレファント・バニッシュ』
村上春樹の小説を原作として、サイモン・マクバーニーが演出した公演。
世田谷パブリックシアターとコンプリシテの共同プロデュース作品。
2003年初演、翌2004年に再演されている。






































アワハウス
2006/6/6〜7/22
ロンドンの下町で貧しい生活を送っていた16歳の少年ジョーの運命の分かれ道とは!?「良いジョー」と「悪いジョー」2人のジョーが交差しながら描いてゆくハッピーな人生とは?
マッドネスの曲に載せて贈る、等身大ミュージカル・ヒューマン・コメディ!

ハリーポッターたちの世界へ通じるホーム
キングズクロス駅の「9と3/4」番線ホームからホグワーツ魔法学校へ行けるのですが、もちろん実際にそんなホームはありません。
映画のなかで登場する「キングズクロス駅」は実際のキングズクロスではなく、すぐ近くのセント・パンクラス駅だそうな。

ヴィヴィアン・ウェストウッド
イギリスのファッションデザイナーであり、ファッションブランドの名。
セックスピストルズをプロデュースした人物でもあるそう。ヘーーー。

オノヨーコ
故ジョン・レノンの奥さん

ギルバート&ジョージ
イタリア出身のギルバートさんと、イギリス出身のジョージさん。2人組の現代芸術家。パフォーマンスからオブジェまで様々な手法で多彩な表現を行っている。

ロンドンはバスが24時間
ほんとですよ!



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