――今回、『憑神』を選んだいきさつは?

G2 最初は、別の作品を持って相談をしに、京都にうかがったんだけど、その日は撮影が押してて、橋之助さんと話ができなかったんですよ(笑)。次の日に、と思ってたら、この『憑神』をやらないかという話がポロッと松竹から来て、「え、そんな作品があるの」って言って、その日に京都で原作を読んだんです。それで、「これ、おもしろい。これ、やろ!」って思って。

橋之助 去年、『魔界転生』をやらせていただいてるときから、京都の撮影所で『太閤記』を撮っていたんですよ。そのスタッフルームのところに、ある映画の看板が出たんですけど、「これ、何て読むんだ? なに神っていうんだ、これ? なんだこの映画、ホラーか」って、みんなで悪口を言ってまして(一同笑)。「あれはツキガミって読むんだよ」って教えてくれたのが、デビット伊東(奇しくも『憑神』共演)で……そこから憑かれちゃってたかな(笑)。

――G2から話を聞いたときに、どう思われました?

橋之助  G2さんと縁あってお仕事をさせていただいて、『魔界転生』が思いのほか、お客さんに喜んでいただけた。俳優陣を含めてスタッフも仲がよくて、打ち上げは熱海の温泉で旅館を借り切ってやったんですよ。そのときに、みんなと「また再会しようね」って別れたんですけども、でも、一番目がいいと期待が大きくて、二番目を探すのがなかなか難しい。僕は、柳生十兵衛に感情移入が大きかったから、打ち上げのころは、十兵衛シリーズをやりたいと言ってたんですけど……京都で会ったときのG2さんの目は、「もう決まってるから、これをやれよ」っていう目だった(笑)。G2さんって柔らかそうに見えるけど、とてもガンコなんですよ(一同笑)。自分で決めたところは通す……ときどき、失敗したなって思ってるときもあるみたいだけど(一同爆笑)、それでも最後まで通す……そこがG2という監督のチャーミングなところでもあると思う。



――また一緒にやろうと思われたのは?

橋之助 一期一会じゃないけど、(感覚が)合う監督にはお互いに聞こえる音があるんですよ。いまケイタイで、モスキート着信音って流行ってて、これがね、 20代に聞こえる音が30、40代には聞こえないんだって。G2さんと僕だと、なんていうのかな、小学生にしか聞こえない音を僕たちは持ってるんです。それは、あうんの呼吸でわかるだけじゃなく、お互いに「いや、こうじゃないと」ってケンカもできるという……それができるから、またやりたいと思うんじゃないでしょうかね。

G2 最初にお誘いいただいて、お互い何を考えてるのか話しましょう、という飲み会で、橋之助さんが、この1回だけじゃなくて、次も考えたような第1回にしたいとおっしゃった。僕も、そういうふうに積み上げて次の作品につなげていくということがやれる相手を探していたんです。それ以外にも似たようなことを求めてるな、っていうのがあったし。酒の席の話は、稽古場に入って話すと食い違うことってあるんですけど、むしろ稽古場でお互いにアイデアを出してるのが、すごく楽しかった。『魔界転生』で、あと何日かで本番というときに、「ラストシーンを根本的に変えたいんですけど」って言ったらノッてくれて、役者さんを集めて、あーでもない、こーでもない、って話をして、次の日、おれが台本を書いてきて、これでやってみましょうか、って、商業演劇ではありえないような試行錯誤をしたんですけど。好き放題に言ってるから、次の日、橋之助さんが「これ、おもしろいね」「え、これ、橋之助さんが言ったセリフですよ」「あ、そうだっけ」って(笑)。

橋之助 お書きになった人を前に言っちゃあ申し訳ないですけど、脚本はあくまで教科書ですからね。いい言葉だなーと思っても、稽古場に入ってうまく言えないこともある(一同笑)。そんときはホントつらいですよね。


――原作よりも喜劇のトーンが濃い脚本になっていますよね。

橋之助 そうですね。でも、やる側は喜劇にもっていかないほうがいいですね。

G2 スタッフや役者が笑わせようとしたら、失敗になるでしょうね。

橋之助 そう。一生懸命やっていることが、おかしく見えるという作品でしょうね。

G2 僕はアンダーグラウンドな領域が多いんですけど、『魔界転生』で、自分的なおもしろさを入れたところが、けっこう新橋演舞場のお客さんにも笑ってもらえたので、そこはちょっと自信になりましたね。だから、本人がおふざけをするんじゃなくて、役の人物の一生懸命さがズレて笑いになるというのを、もっとやりたいと思ってるんです。

橋之助 そこは、落語のしゃべりのような、「間」が大切になってくるでしょうね。声の出し方も、これぐらいのほうがいいのかな(ボソボソとしゃべって)、って思ってるんですよ。

G2 歌舞伎の発声じゃなくて、ふつうの役者さんぐらいのトーンで攻めてみるのもいいですね。もともとの声もすごくいいから。

橋之助 いやいや。「間」って、しゃべってるほうは楽なんですよね。聞いてる側の「間」が問題なんですよ。僕なんか、聞いてるうちに、違うことを考えたりしてて(一同笑)。ふだんの会話でもあるじゃないですか。半分まで聞いてて、つまらないなと思ったら、あとは聞いてなくて、その人に聞かれたことと全然違うことをしゃべりだしたりして。

G2 橋之助さんの酒場での話の切り替えは早いんですよ。ついていけないもん。2、3分ごとにまったく違うジャンルに変わる。

橋之助 気が短いから(一同笑)。

G2 橋之助さんは飽き性だから……稽古中にハッとするような瞬間があるんですよ。稽古のときに、橋之助さんが「あ、わかったよ」って言う瞬間が。それでやってもらうと、ものすっごくいいんです。でも、1週間後に同じ稽古をやると、「全然違いますけど……」「え、あのときオレ、何やってたっけ?」(一同笑)。そういう、ものすっごくもったいないことが、けっこうあったので、今回はああやって橋之助さんから出てきたものを、なるたけ閉じ込めておく方法を考えないと、と思ってるんです。

橋之助 稽古しないことだよ(一同爆笑)。


――主人公が現代にもいそうな等身大の人物ですね。

G2 前回も、柳生十兵衛というヒーローではあるけれど、等身大の人物にしたんです。キメるところは、かっこいい橋之助さんでキメましたけれど。今回は、さらに等身大に近づけたいと思ってるんです。

橋之助 自分で言うと、ちょっとおかしいけれど、「かっこいい橋之助」はもういい。隠れていた橋之助を引き出したいということが、 G2さんとやるうえでの大きなテーマなんです。

G2 隠されていた橋之助さんというより、ふだんの橋之助さんが、すごくいいんですよ。

橋之助 バカですから(笑)。

G2 そのバカなところが舞台でなかなか出てこないのがもったいなくて。バカって言っちゃいましたけど(笑)。熱海の宴会のときなんか、めちゃくちゃですよ。「お風呂行こう」って銭湯へ連れてかれて、思いっきりみんなに湯をかけていたかと思うと、もういなくなってる(一同爆笑)。なんて自由奔放な人なんだ、と。そこを出してもらえればいいな、と思って。

橋之助 それが『憑神』の主人公、別所彦四郎の生き方なのかもしれないですね。

G2 まさに歌舞伎俳優として古いものを守っていきながら、新しいもののよさも知っている……そこの悩みなんか、彦四郎の悩みに似てますよね。

橋之助 僕自身も彦四郎の気持ちはよくわかる。マイナスな志向じゃなくてね、プラス志向で。明日があるから、世の中は変わる。でも、どう変わるのか、何を信じたらいいのか……そういう意味では、いまの世の中にとても合ってる作品だと思う。いま世の中で、どんなことが注目されてるとか、悲しいとか、困ってるとかということを芝居やドラマの題材にすることが、僕たちの役割でもあると思う。いまって、いい時代なのか、悪い時代なのか、ちょっとわからない気がしません? ましてG2さんも僕も、人の親という立場で、子どもたちが大きくなったらどうなるんだろうって、思うことありませんか?

G2 ありますよ、それは。

橋之助 それが、主人公の彦四郎の考えていることのような気がするんですよ。

G2 世の中は変わっていくので、価値観は古くなっていき……

橋之助 あ、それからね、どっかで雨降らしたいんですよ(あまりの切り替えに一同笑)。

G2 いいですよ。雨やりたいですね……

(このあと、しばらくアイデア会議になってしまいましたので、内容を伏せさせていただきます)

G2 こんな感じなんですよ、稽古場でも(笑)。


――では最後に、観に来られる方にメッセージを。

G2 僕の中では、橋之助さんとやる第二弾っていう意味合いが大きい。ただ、『魔界転生』とまったく違う作品なので、「これが第二弾なのか?」って思う人もいるかもしれない。前回、ふだん演舞場にいらしているお客さんも、あまり演舞場に足を向けられないお客さんにも喜んでもらえて、それはうれしかったんですね。今回、歌舞伎を背負ってらっしゃる人と、アンダーグラウンドなことをやってる人間との、組み合わせの質がすごく深まりそうな気がする。さらにクオリティの高いものが提供できると思うので、ぜひ、観に来ていただきたいですね。

橋之助 幸いなことに、これから映画の『憑神』も封切られますし、浅田次郎先生の原作を読んで、映画を見て、舞台を観ると、いろいろな発想が浮かんで、おもしろいんじゃないでしょうか。芝居では、『憑神』のメルヘンな部分を出したいですね。たとえば神様やサンタクロースがいると信じるような、夢を持っていることは、現実的な現代社会では弱い人間とかダメな人間だと見られがちですけれど、僕ら演劇人というのは、そういう夢を信じている人間だから、お客さんにも夢を与えることができると思うんです。 G2組が総力を挙げて(一同笑)、9月に新橋演舞場、10月に松竹座(大阪)……2カ月も同じ芝居をやるなんて初めてで、飽き性の僕には問題のところなんですけど(一同爆笑)。



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