ちっちゃいガンバリをしている人たち ――『相対的浮世絵』というタイトルは? 土田 まぁ、「浮世絵」というのは、現世の縁ということで、「相対的」っていうのは、逃げたほうと、逃げられたほう、どっちが正しいのか、それを相対的に書きたいなと思ったもんですから、それで「相対的浮世絵」と。 G2 作家の書く前の志をタイトルにした、と。戯曲集の本のタイトルにしてるぐらいだから、相当気に入ってるんでしょ? 土田 そうなんですよ。いや、売れるタイトルじゃないのは、わかってますよ。 G2 だよね。戯曲集も「錦鯉」をタイトルに持ってきた方が売れたと思うよ。 土田 あっらー。そうですかー。もう、いまさらどうしようもないですよね、それ。 G2 ごめんごめん(一同笑)。 土田 でもね、この仮チラシのこの字体だと、けっこうインパクトがありますね。戯曲集の表紙もこんなのにしたかったな、って、いま思ってるんですけど。 G2 戯曲集としては、いまのほうが文学的でいいんじゃない? 土田 あ、そうですか? G2 (笑)人の本の表紙に、ちゃちゃ入れてちゃいかんけど。最近「セリフの時代」でよくつっちーの戯曲を読むんだけど、『強がる画家たち』が、おもしろかった。 土田 小劇場の子たちが、わりとああいう会話をしてるんですよ(G2爆笑)。京都で稽古してて、喫煙所に行ってタバコを吸ってたら、若い劇団の子たちが2人が「火貸してください」って話を始めたんですよ。そしたら小劇場のなかでの有名人知ってる自慢に微妙になっていったんですよ。「今度やるんですよね、野田さんの……」「え、野田さんって、野田秀樹さん、ですか?」「ええ、野田さんが、ま、昔、駒場でやったときにちょっと手伝ってた人と……」って、どんどん遠くなる(一同笑)。そうすると片っぽも「鴻上さん、って知ってます?」「知ってますけど」みたいな言い合いがあって、それを心の中でずーっと笑いながら聞いてたんですよ。それをそのまま書いたんですけど、「セリフの時代」だとナマナマしいと思って画家に変えただけで。 G2 そのままのほうが、おもしろい。その小劇場版をこれのパンフに載っけようよ。あれは、どういう業界にもある話だよね。 土田 自分でも、それに似たことを言ってますよ。「芝居ってたいへんでしょ」とか「ごはん食べてますか」とか、あんまり言われ続けると、もう大人だし、プライドが傷つくんで、いままで仕事してきた有名な人の名前を出して牽制していくみたいな。あとで自分でもイヤなヤツだなーって思いますけど。 G2 そういうプライドのすれ違いとか、腹のさぐりあいって、この『相対的浮世絵』にも出てるよね。 土田 そういうのが大好きなんですよね。僕の趣味は盗み聴きで、スターバックスとかに入ると、まず席を見回して、ケンカしてそうなカップルとか、自慢してそうな先輩と黙って聞かされてる後輩とか、そういう人がいると隣に座って、iPodのイヤホンをするんですよ。で、音楽かけずにノートを広げてると、僕が音楽を聴いてると思って、すごくイキイキとしゃべってくださるんですよ。で、それをずーっとノートにメモしていって、だいたい、その会話をヒントに芝居にしていくんです。好きなんですよ、ちっちゃいガンバリをしてる人たちがね。 G2 俺はファミレスで仕事をしていると没頭できるんだけど、そうやって没頭していても聞こえてくる会話があって、そうなると聴いちゃうんだよ。おもしろいよね。 土田 あの、聴かせちゃう力はすごいですよ。あれを芝居でやらなきゃいけないんですよね。ちょっと酔ってるサラリーマンの人とか、とんでもない自慢をしてたり。(50cmぐらいに手を広げ)こんなミミズを見たって。言い出した人は、ちょっとずつ(手の間隔を狭めてながら)ちっちゃくして、がんばってるんですけど(一同爆笑)。 |
ちょっとニンニク多めでコショウもきいてる ――この作品をG2が観たときの印象は? G2 つっちーが、ロンドンに留学して帰って来て、確か、観る前に聞いたんだよね、「ロンドンに行って、僕はこれから骨太なものを書きますから」って。どんだけ骨太なものか、見せてもらおやないか、って思って行ったんだよ。 土田 ロンドンから帰って来て、1作目だったんです。G2さんもわかると思いますけど、よくないと思いつつ、どうしても日々の締め切りとか生活に追いかけられながら、でっち上げていくことが多い中で、ホントに1年間考えた作品ってないんですよね。僕としては、日本に帰ったらこれを書こうと、わりと切実に思ってたんです。ロンドンに留学する前に、劇団にちょっと嫌気がさしてて(一同笑)。なんで嫌気がさすかというと、演劇のことじゃないんです。人間関係とか、座長であることのしんどさとかが大きいんですね。そのことで、すごくイライラしていたんですよ。そういうこともあって、ちょっと疲れてたので、リフレッシュする意味でも、1年ロンドンで留学して、勉強させてもらったんです。 G2 うんうん。 土田 これ、被害妄想ですけど、万が一、火事になったら、あいつら(劇団員)は逃げるヤツだと(一同爆笑)。 G2 この作品は、劇団員との関係をそのまま投影したわけ? 土田 そう、これはね。新作を書くとなると、この思いを書くしかないな、と。だから、僕としては、すごく思い入れがあるんです。 G2 その思い入れは、観てて感じましたね。俺は、すっごいコッテリのが好きだから、俺からすると、つっちー(土田)の作品って薄味なんだけど、そんなつっちーの作品のなかでは、わりとコッテリ…… 土田 そうですね。ちょっとコショウがきいてる感じですね。 G2 コッテリまではいかないか…… 土田 あっさりに、ちょっとニンニクを多めに入れたみたいな(一同笑)。 G2 そのニンニク味の分だけ、自分がかかわりやすい作品なのかな、と。 |
かっこよくミドルシュート、なんて考えたらダメ G2 つっちーのホンは、演出するのが難しいと思う。俺は一度、30分ぐらいのホンを借りてやったことがあるんだけど。まー、頭の中で読んだときは、いいなと思うんだけど、演出をつけたり、実際声に出したりするのが、すっごく難しい……なんて言うのかな、持つところがわからない、っていう感じ。 土田 それ、みんなに言われるんですよ。僕自身は、そんなふうに書いている意識は、まったくないんですけどね。 G2 ふつうは、人物造形を深めることによって、セリフの手がかりができたりするんだけど、つっちーのホンは、人物造形を深めようと思っても、セリフのほうに行かないんだよ。 土田 するどいですね。そのとおりなんですよ。だから、うまい役者さんのほうが苦労されますね。自分ひとりで処理しきれないんですね。かけあい全体で、人間関係とか人の気持ちを見せる、って書き方を、どうもしてるらしくって、一人ががんばっちゃうと、逆にダメになるんですよね。最近は、サッカーによく例えて、パスを回してくれ、って言うんでよ。シュートは打つなって(一同笑)。 G2 それ、そのまま、役者に伝えます。 土田 かっこよくミドルシュートとか、考えないようにしたほうがいいよ、とか、よく言ってます。僕のは、パスの流れでコロコロコロと入るシュートがあるじゃないですか。ああいう感じですね。 G2 オウンゴール的なギャグとか、あるよね(一同笑)。 土田 ありますね。だいたいブラジルのサッカーのようにボールの展開が早くないし、ダイナミックな感じじゃない。なんか、ちまちまと転がっていく感じですかね。 G2 今回、俺が一番ライバル視しているのが、役者つっちーなんですよ。 土田 ほう。 G2 この作品の役者つっちーは、つっちーが自分で書いて、自分で出てるなかで、一番好きなんだよ。すごくハマってたし…… 土田 いまからでも出れますけど(一同笑) G2 いや、だから、(西岡)徳馬さんに、肩の力の抜けたニュー徳馬さんを一緒に作りましょうって言ってるんだよ。 |
おもしろいところは、ふつうにやればいい G2 自分で書いて演出したものを、人にまかせるのって、どこかちょっと不安じゃない? 土田 いや、そんなことはないですね。小劇場の作・演出家って、自分で劇団をしている人が多いので、みんなそうだと思うんですけど、最初のころは絶対的なイメージがあるわけですよ。そうすると、昔はイメージどおりにならないことに、ものすごくあわててました。 G2 「あわてる」(笑) 土田 ええ。性格がいい人がやってると、あわてる。性格があんまり好きじゃない演出家がやってると、腹が立つ、って、そういう感じだったんですけど。まぁ、年齢もだいぶ重ねてきて、違う人にはこういうふうに見えるんだと、思えるようになりましたね。ちょっと優等生的ですけど、僕の好みじゃなくても、最終的にお客さんがおもしろいと思えるものになってるのであれば、ぜんぜんかまわないです。逆に、自分の思いどおりじゃないものを観たいですね。 G2 じゃ、ちょっとコッテリ味にしていい? 土田 ……(一同笑)。いや、いまなんで僕が黙ったかというと、G2さんのコッテリが、どのへんまでいくんだろうと……ドラマを立てるってことですか? G2 んー、人間関係のドロドロっとしたところを…… 土田 それはぜんぜん、やってくだされば……解釈の違いとか、見せ方の違いっていうのは、むしろ発見することがありますからね。僕が引っかかるのは、細かいギャグとかを、拾わないだけではなく、イタイことにされてる場合があるじゃないですか。お客さんは、それを作者が考えたことだと思っちゃう。 G2 笑いって、難しいね。そして好みが千差万別なんだよね。泣きのシーンって、好みが何種類もあるわけじゃないけど、笑いは百万通りぐらいあるじゃないですか。そのうちの、このセンが好きだっていうのがあると、もうお互い、相容れないじゃない? 土田 そうですね。でも、いやらしい話、僕が好きな笑いの種類じゃなくても、客席がわいてればOKなんですよ。いちばんツライのは、結果が出てないときですよ。僕のは、あっさりで、笑いのところも、笑いがこなかったとしても、お客さんはギャグだと気づかないんですよ。引っかかったときだけ笑ってくれる。それを、ギャグだー!っていうふうにやられて、スベってるのを見るのはねー…… G2 それは大丈夫、絶対やりませんから。俺はホントはそこで笑いがほしいんですよ。でも、役者の皆さんには「ここは笑い欲しくないですから」って、はっきり言う。 土田 そうですよね。役者って、どうしても貪欲にやっちゃうもんだから。 G2 空気感とか、思いのズレがおもしろいわけだから、その思いのズレがちゃんと出てれば笑うのに、それを、もうちょっとあわててみたほうがおもしろいだろうか、とか…… 土田 いらんことを、やっちゃうんですよね。 G2 そう。そうすると、あわててることしか見えなくなって、ズレが逆に見えなくなる。目指す笑いと違うものになるし、突発的に役者がつくったことって、そのときは笑えるかもしれないけれど…… 土田 続かないですね。いつも僕が役者さんにお願いするのは、ホンのつまらないところは、役者さんの力でおもしろくしてくれていいけど、おもしろく書けてるところは、ふつうにやればおもしろいんだから、ふつうにやってください、と。そこを、おもしろくやろうとすると、おもしろくなくなるんだから。また、初日が開けて、ウケないって言われてるところがウケると、次の日、こってりやっちゃうんですよ。そうするとウケないんですよね。 G2 初日が近づくと、役者に、笑いが来ようと来まいと、関係なしの人たちであってくださいって言う。そうじゃない人たちだろうな、って、わかってても、念のために言ってる。 土田 僕も似たようなことは言うんですけど、自分の不安のほうがでかくなっちゃって、休憩時間になると「ウケるだろうか?」「ウケると思う?」って正直な気持ちが役者の前で出ちゃう(一同爆笑)。 |
あっさり味の作家とこってり味の演出家 土田 こうやって話してると、だんだん大船に乗った気分になってきましたね。これは好きな作品なんですけど、自分の作品のなかでも地味なほうだと思っていたので、逆にそれはうれしいんですよね。僕がやったときも、日によって、すごいウケた日と、シーンとぜんぜん笑わずに観てた日とがあって、そういう意味でも、どういうふうに転んでいくのか想像がつかないので、楽しみなんですよね。 G2 俺は地味だとは思わなかったんだよ。つっちーの地味、派手っていうのは、どういうところ? 土田 愉快さとか。話の内容は、あまり関係ないですね。客席がわいてれば派手だなーって。 G2 じゃ、派手な芝居にしてご覧に入れましょう。 土田 その意味では、派手にしてもらいたいですね。それを見たいな、っていうのが僕の気持ちですね。 G2 僕のなかでは、あっさり作家が書いたものを、どれだけこってりにできるかな、っていうのが課題なんだけど、徳馬さんには、あっさり味を出させたいな、と。それから、平岡(祐太)くんと袴田(吉彦)くん演じる兄弟は、このキャスティングによって、つっちーの脚本のなかでも新しい化学変化が起こりそうな気がする。こんな化学変化もあるんだと、つっちーが見て喜んでくれたら、それは幸せだな、と。 土田 キャストはちょっとない座組ですよね。どう形容していいかわからない。「ああ、あれね」とは言えない感じの、新しいチームで。それがどういふうに動くのかも、楽しみですね。 |