――チラシに「音楽劇」とありますが、この「音楽劇」というのは、どんなものなんですか?

 じつは、最初から音楽劇をつくろうと構想していたのではないんです。企画に集まってきてくれた俳優に歌がうまい人が多く、物語の中核にも音楽がからんでいるので、じゃあ、いっそのこと「音楽劇」にしてみたらどうか? という、まあ、よく言えば、ひらめき。悪く言えば単なる思いつきです。

――じゃあ、歌もあるお芝居になるんでしょうか?

 ええ。まだ決定というわけではありませんが、一路(真輝)さん、(高橋)由美子ちゃん、伊礼(彼方)くん、松下(洸平)くんの4人には、ぜひ一曲ずつ歌っていただきたいと思っています。

――ミュージカルとの違いは?

うーん、音楽劇とミュージカルの違いって、なんだかよくわかりませんね(笑)。ただ今回は、生演奏でお届けする予定です。



――吉田鋼太郎さんとは、3年前の『ガマ王子vsザリガニ魔人−MIDSUMMER CAROL』以来の顔合わせですね。

 以前から注目する俳優さんでしたが、『ガマ王子……』でご一緒して、その才能に撃たれました。魅力は、ひとことで言うと「俳優力」ですかね。ヘミングウェイの言葉に「ドストエフスキーはシベリアに送られることによってつくられた」っていうのがありますが、鋼太郎さんもどこかに送られたことで得たんじゃないか、と思うような迫力があるんです(笑)。その秘密は、これからのお付き合いの中で解き明かしていきたいですね。一般の方々にはシェイクスピアなどのハードな芝居が有名ですが、僕は鋼太郎さんの中に潜む繊細さを浮き彫りにしていく作業を続けていきたいと思っています。コメディアンとしてもたぐいまれな才能をお持ちなんですよ。

――山譜黷ウんは、その「ガマ王子」の初演に出演されていますね。

「ガマ王子」でもそうでしたが、もう山崎さんは「達人」の域に入ってらっしゃるので、今回のカンパニーに入っていただけたことで、本当に安堵しました。ドライな役も、ウェットな役も、くさみがなく、しかも独特に演じられて、いつも物語をしっかり支える存在になっている。オールラウンドなプレーヤーでしょう。ただこの企画について、山崎さんは「俺、絶対に歌はダメだからね」と言い張ってらっしゃるんです。はてさて、どうなるのか、フタを開けてのお楽しみですね。

――市川しんぺーさんの存在感も独特ですよね。

 次々と男前俳優が決まっていくなかで、あと一人、となったときに、僕から「もうイケメンはいいから。そうだな……例えば、市川しんぺーみたいなのを入れて欲しい」(一同笑)と、プロデューサーに懇願したら、たまたましんぺーさんが空いていたというラッキーな偶然で決まりました(笑)。もちろん「笑い」担当です。彼は『テーブル・マナー』でご一緒しましたが、キャラクターだけではなく、ニュアンスも出せる人なので、そのあたりで今回も期待しています。

――高橋由美子さんは、『地獄八景‥浮世百景』で……

 そう、そのときにご一緒しただけなんですが、それ以外でも酒場ではよく顔を合わせたことがあるんです。というか、あちらが常に酒場にいらっしゃるというか(笑)。僕が、なよなよした女性的な性格なので、由美子ちゃんのような「男らしい」人がいると頼もしいんです。芝居も、図太いのに可愛い女をやらせたら天下一品。単純に、由美子ちゃんと稽古場で過ごすのが今から楽しみです。



――新しい顔合わせとなるみなさんも、個性豊かですね。 一路真輝さんは、鋼太郎さんの奥さんの役とか……

 はい。鋼太郎さんの奥さん役を誰にしよう、という話のなかで、一路真輝さんの名前があがったときに「ああ、なるほど!」と思いました。あの鋼太郎さんから繰り出されるパワーとわたりあうためには、強さを秘めた女優でなければならないし、そのうえ、この役にはセンシティブな感覚も必要になる。どちらも一路さんには内在していると思いました。こないだお食事をご一緒させていただいたんですが、素顔は意外に……まあ、それは内緒にしておきましょう。いずれにしても、すてきな女優である前に、すてきな女性だと感じました。

――伊礼彼方さんがまた、すてきですよね。

 このあいだ楽屋でお会いして、ご挨拶したんですが、間近で見てもカッコイイんですよね。でも、ちまたにあふれる二枚目俳優の誰よりも芝居に熱い人であると僕は見ています。ミュージカルに出演していても、まず芝居や人物をつくってから歌に入っているような印象がある。今回は、一路さんの心を惑わす役になりそうなので、そのあたりは持ち前の男の魅力をぐっと出してもらえれば、と思っています。

――いちばんの若手の松下洸平さんは、どのように配役を?

 最近どうしても若い、新しい人との出会いがなくなりがちだったので、若い子を紹介してくださいとプロデューサーにお願いしたら、彼を推薦されました。PVを拝見して、その歌唱力に感心しました。あとプロフィールで映画『天使にラブソングを2』を見て感動して、歌手になることを決めた、というのも気に入りましたね。ただ、あの映画は「2」より絶対「1」なんですが(笑)。彼の参入で、音楽劇にしよう、という思いが強まりました。彼の芝居は、僕にとっては未知数なんですが、若い人との化学反応を自分も楽しみたいと思っています。



――この配役でしかも「音楽劇」で、題材がアルツハイマーですか?

 そうですね、ベースにあるテーマは重いかもしれません……もう十年近く前になるけど、若年性アルツハイマーになった母をもつ娘の闘病を、テレビのドキュメンタリーで見たんです。その闘病でいちばん大事だったのは、看病する側の笑顔だったんですよ。それを見たときに、人の記憶ってなんて不思議なんだろうと驚き、人間ってこれほどまでに強くなれるんだ、と痛切に感じたんです。もう涙が止まりませんでしたね。「闘病」に対するイメージが180度変わった番組でした。 それ以来、いつか実現したいと思っていた企画でした。

――台本は自分で書かなかったんですか?

 ええ、なかなか手をつけられなくて。中島淳彦さんが台本を引き受けてくれたことで、実現の運びになりました。中島さんには3ページほどのストーリー案を渡して「あとは好きに書いてください」とおまかせしました。僕と中島さんでは作風がぜんぜん違うと思われるかもしれませんが、自分としては中島さんと「泣き」や「笑い」のポイントが似ていると感じています。まあ、中島さんがそう思ってらっしゃるかどうかはわかりませんけれど(笑)。 テーマは重いですが、しかし、きっと劇場には笑いが満ちあふれると思ってます。そして、じんわりと感動を迎えるような作品になるはずです。 今はそれだけしか明かせませんが、その全貌について折をみてじっくりと紹介していきたいと思いますので、ぜひまた(このサイトを)チェックしてみてください。

 故・井上ひさし氏のお言葉「むずかしいことをやさしく やさしいことを深く 深いことをおもしろく おもしろいことを真面目に 真面目なことを愉快に」が実現できる舞台だと確信しています。真面目に愉快に作ります。