——初演のとき(『旅立て女たち』)に出演されたときから、いつかぜひやりたいと思っていたお芝居だと……

戸田 「ぜひ」と言われると、いつもとても苦しい答えをするんですけど(一同笑)。ホントに実現するとは思ってなかったという、淡い恋心だったんですよ。いつか、こんなことができる女優になりたいな、って。初演で主演だった雪村(いづみ)さんとお会いして、「やったら?」って言われたときに、「私でいいのだろうか」とか、いろいろ複雑な思いがあったんです。でも、雪村さんが演じられたときの年を私は超えていて、もう四の五の言っていたら先はないのかな、って(笑)。だから、ゆっくり手を上げてみたんです。そしたら、運よく引っかかったプロデューサーがいたので(笑)。

——この作品のどこに惹かれたんですか?

戸田 ひとつは、雪村いづみさんという方が、とてもすてきな女性だということですね。アメリカナイズされたライフスタイルから、女優としてもシンガーとしても、ひとりの女性としてもね。初めてスターと仕事をしたもんですから、そのときの印象がすごくよくて、「あー、私はこんな人になりたい」って、ホントにそう思った。毎日、いづみさんの歌を聴けて幸せだなーって思ったし。まだミュージカルの右も左もわからない一研究生が、毎日同じ空間にいられて、とても幸せだったし、雪村さんに大人の女性としてすごく憧れを持ったーーそこがいちばんですかね。この芝居をホントにわかってたか、というと、(初演のときは)自分の役をやるので精一杯で、そこまでいってなかったと思うんです。今回改めて読んでみて、「なるほど、こういう芝居か」とわかってきたというのが本当のところなんです。

——最初の稽古のときに、G2はショックを受けたそうですけど……

G2 これ、たぶん戸田さんには初めて言うんですけど、読み合わせのときに、「なんだ、もう出来てるじゃん」って思っちゃって。

戸田 そんなことはないでしょ(笑)。

G2 確かに、いまやってる方向性とは違うんですけど、すごくポップな『今の私をカバンにつめて』が、出来上がってたので、ちょっと悩んだんです。自分が思ってる方向に行くべきか、そのときに感じた戸田さんの魅力を活き造りにすべきかーーで、戸田さんと話したら、それはそれでお好きにどうぞって(一同笑)。じゃ、ちょっと好きな方向でやろうかなーって。そしたら、すーっと、その世界に入ってもらえたから、ホッとしているんです。戸田さんは何でも早くて「初見力」っていうのが、すごくある人なんです。

戸田 そんなことないですよー。

G2 いやいや。まだセリフが入って(覚えて)なくて、ホンを持ちながらやってるときに、戸田さんはホンを持ってないように見える。ほかの人はだいたい「ホンを持ってんじゃん」っていうのが、すっごい気になって、はずしてくれないと、どういう芝居になるのか、わかりにくいなーって思っちゃうんだけど、戸田さんは、ぜんぜんそれが気にならない。気がつくと、あ、ホン持ってたっていうぐらい。

戸田 それはいいことなのか、どうなのか(笑)。




——演出家G2はどうですか?

戸田 すばらしいですよ。

G2 いるから悪口が言えない(一同笑)。

戸田 そんなことないです。ホントに……とても丁寧にとことん教えてくださるし、センスもすごくよくって、方向性もよくわかるし……言われても、出来ないことがたくさんあるんですけど(笑)……ちょっと、なんか劇団時代を思い出すって言うか、やりやすいし、挑みやすいですね。
これまでに何本か演出された作品を観せていただいたんですけど、親しい人が出ていないと、人となりまでは聞けないじゃないですか。どんな感じの人?って(一同笑)。最近、新しい出会いがどんどん少なくなって……もちろん、リピートで呼ばれるのは、ものすごくうれしいんですけど、新しいプロジェクトに行くことも少なくなっていて、今回は、ホントによかったです、いろいろな意味で。G2さんは、音楽にも強いから、ホントにミュージカルをやるのに助かるっていうか……ま、精通することがマストではないかもしれないけれど、やっぱり精通しているほうが私たちもやりやすいし、心強いですね。

G2 ミュージカルをやりだして、これが6本目なんですけど、最初のころに似たようなことを言われて、「え、でもそれはミュージカルをやる演出家としては当然なんじゃないですか」って返したら「案外いない」と言われて、逆に愕然としたんです。音楽とセリフを合わせるため、「何小節目にこのセリフ」だっていう話をしたほうが気持ちが入るから、そういうふうにやってたら、演出家が譜面を持ってやってる姿を初めて見た、っていう人がいっぱいいてびっくりしたんです。今回は、音楽とセリフを合わせるということがあんまりないですけれどね。

戸田 分野別の分業で、できなくはないですけど、今回は判断に迷ったらとにかくG2さんに聞けばいい。それはもうものすごく安心してますし、200%信頼を置いてますので(一同笑)。

G2 ありがとうございます(笑)。

戸田 私は、できなかったとしても、言われたことにトライすることが好きな女優なんです。そうじゃないと、いつも「私」になってしまうから。今回、G2さんと仕事して、みんなに「変わったね」って言われたいんですよ。G2色に染まりたいっていうか(一同爆笑)。全部は変わらないかもしれないけど、どんどん自分じゃないところ、開かないところが開いたというような感覚とか、そういうのがないと、新しい作品とかに挑んだ意味がないので。「絶対これはできない」とか、絶対言いたくないし、最後まで食らいついてトライしたいんです。で、ちょっとでもいいから、「いつもと違うね」とか「よかったね」と言われたい。そういうふうにしていくっていう楽しみが毎日ありますね。

——G2から見た戸田さんは?


G2 歌、ダンス、芝居の3つが3つともレベルがこれだけ高い人は、なかなかいない。

戸田 そんなことはないですよ!

——戸田さんのようにマルチな人の、新しい面を出すというのは、大変なんじゃないですか?

G2 新しい面を自分で考えださなきゃならないんだったら、大変だけど、ホンがあるので、このホンに書かれているヘザーはこういう人じゃないですか、という話を僕はするだけなんです。最初の読み合わせで見せていただいた「戸田恵子」さんでも、ぜんぜんいいんですけど、ホンの中に書かれているヘザーになってみます? という提案をして、いまなっていってもらってる。だから、僕自身はそんなに苦闘してるわけではないんです(笑)。




——戸田さんは、ブログに「まだまだまだ……」と稽古のつらさを書かれてますけど……

戸田 つらさというより、自分に対して高く評価しすぎてるんでしょうね。「こんなはずじゃない」とか「なんでだろう」とかね。

G2 今回、出ずっぱりで、歌も踊りも、ものすごい量。普通なら、パンクしてしまいそうになるから、「ちょっとスローペースでやりましょう」と言わなけりゃならないんだろうと思ってきたんですけど、それを言うチャンスを与えてもらってない(一同笑)。

——今回のお芝居をやっていて、おもしろいのはどういうところですか?

戸田 このミュージカルのスタイルがすごくおもしろいと思ってるんです。ミュージカルなんですけど、ひとつひとつ、自分たちがつくった曲をマネージャーに見せるという形式で。それに、セリフの量もけっこうあるんですよね。「ふつうのミュージカルはこんなにしゃべらないよ」っていうぐらい。だから、セリフ劇としてもちゃんとマネージャーともリアルにからんでセリフが言えて、楽曲は楽曲で、いい歌とサウンドをお客さんに聴いてもらえるようにしなくちゃいけない。このスタイルがおもしろいし、うまくいったらすごくおしゃれな感じになるなーって思って。あと、少数精鋭というか、すごく少ない人数でこれをやっているというチーム感もおもしろいですね。ほかのミュージカルで群衆が出てきてワーってやるのとはぜんぜん違う。小ぶりなんだけど、そのスタイルを楽しみたいですね。

G2 この間、石黒(賢)さんがいらっしゃらないときに代役を買って出て、石黒さん演じるマネージャーに、戸田さんが耳元で歌うっていうシーンをやってもらったんですけど、戸田さんの歌声に包まれて「くらっ」と来たんですよね。その次の日に、石黒さんがその歌のあとのセリフに、なかなか行けないっておっしゃる。「実はその前の歌を聴いてて、けっこうジーンと来ちゃってるんで……」。前の日に僕も聴いてたから「わかりますっ」って(一同笑)。

戸田 ま、あんなことって普通はないものね……昔つきあってたボーイフレンドが、あるお店で私ひとりのためだけに歌って、バースデイを祝ってくれたことがあったんだけど、やっぱりああいうスペシャルな感じは、うれしいし……あのシーンはいい感じですよね。G2さんの演出でオンマイクにしないでやってますしね。あの瞬間に、私の中で、スーって異空間に行く感じがあるんですよ。

G2 歌とセリフの境目が戸田さんにはあまりないから、よけいに「くらっ」て来るんですよね。この作品は、ミュージカルが好きな人もストレートプレイが好きな人もどっちも楽しめると思うんですよ。ミュージカル嫌いの人は「なんで急に歌いだすのかわからない」っていうのがあるんだけど、この作品は、バンドをマネージャーに聴かせるために、歌わなきゃ話にならないし、マネージャーの石黒さんと戸田さんの二人のストレートプレイ部分はかなり見応えがある。

戸田 おもしろいところが、いちばんシンドイところでもあり、けっこう大変だなって、やってみて初めて思いますね。でも、つらいところが勝負を賭けるところなんだろうな、って思いますし。

——では、最後に観に来られる方へメッセージを。

戸田 どこを見てほしいとかも、ないんですけど、見てどんなふうに思ってもらえるのかを、早く聞きたいなー。私がすごくいい人で、ジョー(石黒演じるマネージャーの名前)が悪い人みたいに思われなければいいなと思ってるんだけど……どっちも生き方としてあるんですよね……大人の切ない前進、っていうのかな、こういうことあるよね、って。ヘザーが喜んで別れようと言っているわけじゃなくて、別れるのはすごくつらいし、悲しいし、だけど、自分の道を進むためにこれを選んだ……ってこと、あるよね。そういうことを見ている男性にも思ってもらえたらいいなと思うし、去っていったジョーがいいとか、悪いとかじゃなく、人間として生きていくっていうことから、この作品を観てもらえたらいいなーって……

G2 芝居が終わって、帰りの食事で、みんなが「あたしはヘザー派」、「あたしはジョー派」って、意見を闘わせることができるような、ね。

戸田 とかく女の人のことを言ってるみたいに描かれている印象があるかもしれないけれど、やっぱり男の人がいて、女がいてみたいな……スパーンと竹を割った感じじゃなくて、最後の切ない感じ、小さなロックバンドが消えていく感じの芝居だなーって。

G2 年齢に関係なく、人生の曲がり角に来ている人に観に来てほしいですね。誰でも、人生で曲がり角に立つことがあるじゃないですか。ちょっとおこがましいですけど、そういう人に元気や勇気を与えられるものになればいいなーと。楽観的な元気じゃないですけど、「まだ時間はあるから」っていうふうに、思えるものになればいいなーと思ってます。



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