[タイトル写真]G2アンド鳳蘭特別対談

 数々の演劇賞に輝いた『COCO』の再演へ向けて、いよいよ始動!
鳳蘭レビューアカデミーに鳳蘭さんを訪ねてのスペシャル対談は、
次第に再演の作戦会議の様相を帯びて……この話題作のヒミツをご覧あれ!


 セリフも歌も、ちゃんとお芝居になっている


——初演のときのG2の印象はどうでした?

 「うわ! この人、できるわ」って思いました。別にここにいるから言ってるわけじゃないですよ(一同笑)。本当に思ったんだから。

——どういうところで、ですか?

[写真]

 ミュージカルの感性を持っている人は、日本人には少ない。だから、わかってもらえなくて、あきらめることが多いんだけど、G2先生は——あ、「先生」って言ったら怒るんだ(一同笑)——G2さんは、それをあきらめずに指摘するの。私だけじゃなくて、ほかの人にも。「この人、なんでわかるんだろう」って思った。(G2に)ミュージカル畑出身じゃないでしょ?

G2 『COCO』をやったのが、ミュージカル4本めでした。

 そうでしょ。なのに、「なんでこんなに繊細なことがわかるんだろう」って、私、もうすっかりファンになったんです。G2さんは、妥協しないんですよ。できないなーって思ったら、みんな、あきらめるじゃないですか。それをG2さんは、違う道から言ったりとか、いろんなことを言って、させてしまう。あきらめない。私も、あきらめてほしくない。

G2 あきらめない、ということだけが、自分の取り柄なので……たぶん(笑)。

 ほかの演出家で、あきらめちゃってるのを見ることがあるんですよ。もうひとつ押して、その役者にそれができたら、この作品がもっと良くなる、ってこと、あるじゃないですか。でも、この人は、ずーっと最後まであきらめないでやってくれてるので、私は陰で(拍手しながら)「やったー」って(一同笑)。ミュージカルは総合芸術だから、ひとつ妥協したら、ダーンと下がってしまう。なかでも、お芝居が大切。ミュージカルの演出家は歌と踊りにばかり目がいって、お芝居がアバウトになってしまいがちなんですよ。私は四十数年ミュージカルをやってるけど、お芝居に、こんなに一生懸命やってくれる演出家が初めてだったの。

[写真]

G2 僕は逆に、鳳さんの歌もお芝居だと思ったんですよ。体全体で、歌を具現化してる。そこが好きなんですよ。ミュージカル俳優の人は、歌は歌、お芝居はお芝居、って分けちゃう人が多いんだけど、鳳さんは、しゃべってるときでも、歌ってるときでも、お芝居に変わりはないってことが徹底している。なので、話がしやすかったですね。

 ここ(鳳蘭レビューアカデミー)の生徒にも、一度、歌詞をセリフとして言わせて、それから歌わせるの。つい、みんな「アーアアー」(と高らかに)歌っちゃうから、「ちがう!」って。

 持ち味が「確信犯的演技」に結晶

——鳳さんが、お芝居のなかで大事にされているのは?

 大事にしてるかどうか、わからないけど、私、オーバーでしょ(一同笑)。けっこう外国人の演出家には愛されるんですけど、それが日本人の中では、ちょっとワル目立ちしちゃうのね。もうちょっと押さえたほうがいいのかな、って思ったり、でも、人にはないオーバーさなんだから、これはなくしちゃいけない、って思ったり、ずーっと悩んでる。宝塚でも、私をトップにするときに「あれはグロテスクだからダメだ」と反対した演出家がいたぐらい(笑)。今年、四十数年やってきて初めて演劇賞というものをたくさんいただいたんですよ。その中で「確信犯的演技」って書いていただいた新聞があったんだけど、『COCO』を観て、とうとう評論家があきらめたんだと思ったの(一同爆笑)。それを彼がやらせてくれたんですよ。もし、私のオーバーさを止めていたら、賞はもらってなかったと思う(一同笑)。

G2 オーバーさは止めなかったけれど、ものすごくいっぱい注文をしたから、ときどき、このへん(頭のあたりをさして)から煙が出てましたよ(一同爆笑)。ココ・シャネルは実在の人だから、最初は、「ココはこういう人だったらしいから、そこに近づけるようにいきましょうか」って、やっていったんです。実際にココとしゃべったことのある人が「言葉の奔流で、とめどなく言葉があふれ出て、すごいテンポでしゃべる」って書いていたので、資料をお渡しして……

 資料がこーんなに来たのよ。「えー! こんなに読むの!」って(一同笑)。

G2 で、一部だけコピーして読んでもらって、「わかった。早口でしゃべればいいのね」って(一同笑)。そしたら稽古中に、「舌をかんで死んだら、あんたのせいだからね」って(一同爆笑)。それで、「ここはゆっくりしゃべっていいですよ」って言ったら、「え、ゆっくりでいいの! ありがたいわ!」って(一同笑)……最初はそんなところからスタートして、だんだんやっているうちに、ココ・シャネルに似せるというよりも、ココ・シャネルの生きざまと鳳蘭とがダブる部分を出していくというふうになっていったんです。後半は、鳳蘭版ココ・シャネルでいいって思えた。最後の失意のどん底でアメリカのバイヤーが来て、酔っぱらうところなんて、まさに鳳蘭さんのココになってる。完全にハジけてて、あの場面は、だれがココをやっても、たぶん、ああいうふうにはならないと思う(一同笑)。

[写真]

 うん。あれはシャネルさんとは違うね(笑)。

G2 でも、そこが持ち味というか、おもしろい。そこまでの沈痛な部分……ノエルと暮らせると思ったのに、出て行くと知ったときのギャップとか、その心情の持っていきようがすごく良かったので、最後のハジけたところは、そのままでいいと思ったんです。稽古でおもしろかったのは、鳳さんがからまない場面になるでしょ、それをちょっとやってると、いなくなるの。休憩でもないのに、稽古場のうしろのほうで、もうお弁当を食べてる。で、「鳳さん」って声をかけたら、そこからススーって走ってくる(一同笑)。

 私、お酒が好きだから、セリフは稽古場で覚えて、稽古の後は飲みに行ったりするんですけど、この『COCO』は初めて、毎日まっすぐお家へ帰って、ファンの人がつくってくれたお弁当を食べて、お酒も飲まないで……一滴でも飲むと忘れそうな気がして……そんな、尼さんのような生活をして、4キロもやせたもん。

 初演が観られなかった人はもちろん、観た人ももう一度!

——今回、再演にあたって、なにか変えようということは?

G2 ちょっと自慢げに言うと、大失敗したな、と思うところはなにひとつないので、基本的には、あの初演をもっとたくさんの方に観ていただきたいという気持ちなんですけど、ただ、せっかく再演するのにステップアップしてないのはイヤなので、どこかではステップアップしたい。でも、ご安心ください。鳳さんのセリフはあんまり変えませんので。

 ああ、よかった(一同笑)。

[写真]

G2 膨大なセリフを覚えなきゃならないというなかで、やっぱり鳳さんには天性のカンみたいなものがあって、「このセリフ、言わなくてもいいんじゃないの」というのは、だいたい当たってたんです。翻訳上、日本語で苦しくなっているセリフは「言いたくない」と、おっしゃって、だいぶ削ったんです。それは、削り方をもう少し上手にやれば良かったな、と思うところがあって、それは手直しをしたい。それから、ほかの人のセリフはけっこう変えようかなと……

 それは、どんどん変えてください(一同爆笑)。

G2 実は今日、初演のビデオを見直したら、ちょっと翻訳ものくささが残ってるんですよね。あのあと、何本か翻訳ものをやって、もっと元の英文を無視していいと思ったんです。特に、ジョルジュとノエルの会話とか、岡(幸二郎)さんの電話での長ゼリフとか。初演の、岡さんのセリフで「がんばれ私!」っていう、全然日本っぽいセリフが、すごくハマってたから、ああいうセリフをもっと入れたいなと。

 あのセリフはおもしろいですよ。岡さんも最高で、大親友になっちゃった。

G2 それから、音楽はちょっとアレンジを変えてやりたいなと思ってるんです。もともとフルバンドでやってるのを、数人のバンドでやってて、コンパクトなおもしろさがあるんですけど、もう少し工夫をしたいなと。

——鳳さんが再演に期待していることは、なんですか?

[写真]

 実は初演を観てない友達がたくさんいて、終わったあとで、「良かったんだってね!」って。初演が観られなくて、あきらめていた人たちに観ていただけることですね。ただ、宝塚の同期生で「一回観たからいいわ」「そんなこと言わないで、観に来てよぉ」って(一同笑)。今度のノエル役の彩吹(真央)さんは、ものすごく歌がうまいと評判ですよ。初演のノエル役の湖月(わたる)さんがすごくお稽古を手伝ってくれて……

G2 ノエルとは、べったり会話がありますから、稽古スタートの一時間ぐらい前から来てくれて、二人でやってましたからね。熱心なのはいいんですけど、シーン2を稽古しているときに、シーン5ぐらいの質問が稽古前に来る。「えー? すいません。まだ整理ができてないから……」(一同笑)。それで、二人がどのへんをやってるのかリサーチして、そこも稽古前に頭に入れてやってました(一同笑)。

 舞台生活が長いから、台本見た瞬間に、覚えるのにどれくらいかかるか、わかるの。『COCO』は先へどんどん行っとかないとダメだと思って、お酒も断ってやったのよ。

——今回は、お酒を飲みながらやれそうですか?

 ちょっと、わからないわ。私が出ているところだけのテープをつくってもらって、車で聞いてるんですけど、全然、忘れてる(一同笑)。歌はなんとなく覚えてるんだけど。再演は何度もやってて、セリフが入るのは初演のときより早いから、心配はしてませんけど、もう、テープは聞きはじめてるのよね。

——最後に観に来られる方へメッセージを。

 ココ・シャネルの生き方って、すごいお金持ちの男たちを、計算して操るという、ふつうに考えたら好感が持てないような人ですよね。でも不思議な魅力がある。すごく強いオーラが出ているから、それがダメという人は嫌いだっていう人も多いんでしょう。ものすごく毒舌だったそうなんですよ。でも、彼女にひどく罵倒されても嫌いになれないという人もたくさんいた。それを超える魅力があったんでしょうね。そういうココ・シャネルの魅力を観に来ていただきたいですね。

G2 『COCO』は、いままでの鳳さんのイメージもちゃんとキープしているし、新しい鳳さんの魅力もすごく入ってると思う。『COCO』 の鳳蘭を見逃すと、絶対損です。鳳さんのこの本気の芝居をまだ体験してらっしゃらない方は、ぜひ。

 「演出家がいいから」って、陰で絶対そう思ってるでしょ(一同爆笑)。

G2 少しだけ(一同笑)。

 あなたじゃなけりゃ、妥協しちゃって、これほどの作品にはなってないわよ。

G2 ありがとうございます(一同笑)。

[写真]

G2の編集後記


対談を始める前にサングラスを取り替えようとしたら、鳳さんに
「そんな細かいこと気にしないで、もっと大きく生きなさい」と
優しく叱責された。
歯に衣着せぬ、大きな器で周囲の人を包み込んでくれる、鳳さん。
直球勝負の人間の魅力、ということがこれだけ当てはまる人も珍しいと思う。

『COCO』の初演の稽古のときに思い出されるのは、その抜群の集中力。
ほんのちょっとした「小返し」稽古でも、全身全霊。手を抜くということが全くない。

印象的だったのは、「COCO」というナンバーの初めての立ち稽古。
鳳さんの(稽古とは思えぬ)いきなりの迫真の演技と歌に思わず引き込まれ、
稽古場にいたスタッフ&キャストが全員、泣かされてしまったのだ。
なかには嗚咽している人さえいた。

かと思えば、演出家の目の届かないところで、ちゃっかり休憩していたりする。
オンとオフがはっきりしている人なのだ。だからこそオンのときには徹底的にオンなのだ。
舞台上で、すべての言葉に想いをのせ、魂を響かせるような歌と台詞は、まさに言霊。

舞台は映像と違って演技力が問われる、とはよく言われることだが、
僕は舞台に本当に必要なのは、人間力だと思う。
人間力がぎゅっと固まって女性のカタチになっている。それが鳳蘭さんなのだ。
鳳さんの人間力を余すところなく発揮できる舞台『COCO』では、
今年の演劇賞を総なめしたのも納得いただける演技を、充分にご堪能できるはず。

どうぞお見逃しなく。