(※こちらのページは2009年度版COCO上演時公開ページの再収録となります。)
 こんちわ。G2です。このたびココ・シャネルの実話をもとにしたミュージカル『COCO』をやらせていただくことになりました。
 関西出身の私にとっては、シャネルと聞くと、咄嗟にハイヒール・モモコを連想し、その結果、大阪のヤンキーというイメージに辿り着き、それを払拭しようとすると「なんちゃってシャネル」に連想が行ってしまう、というふうにあまり印象の良いブランドではありませんでした。(全国のシャネルファンの皆さん、ごめんなさい)そんな私がなぜ、ココ・シャネルの実話を元にしたミュージカルを引き受けることにしたのか? これはもう、一にも二にも「ココ・シャネルという女性が凄すぎる!」ことを知ってしまったからなんです。
 まずは台本を読ませてもらって「ひゃーっ、知らなかったっ! すげえっ! かっこいい人だなシャネルって」と痛烈に感動し、次の瞬間には、シャネル関係の書籍をアマゾンでワンクリック買いしまくっていました。いやー、もう、どの本を読んでもシャネルという人物の魅力がビビッドに伝わってくる。私、恥ずかしながら同世代のフランスに生まれていたら一発で恋に落ちたと思います。(先方はまったく相手にしてくれなかったでしょうけれど)
 ココ・シャネルの何がそんなにどう凄いのか?
 このページを利用して、5つの「COCOのココが凄い」をご紹介してまいりましょう。


 ココ・シャネルは生涯、独身で身を固めず、死ぬまで恋に生きる女性でした。
 そして、そのお相手はいつも超がつくほどの著名人ばかり。彼女の恋愛履歴の中で最高にお金持ちだったのが、英国の貴族・ウエストミンスター公爵。当時のヨーロッパ第1位の資産家です。
 イギリスの邸宅イートン・ホールには整備されたロールスロイスが17台。港に向かえばいつでも出発できる船が停泊、どこへ旅してもホテルではなく自分の屋敷があり、到着するとすぐに磨きあげられた銀の食器に夕食が用意されて、大勢の召使いと執事たちが控えており、玄関のテーブルには世界中の新聞と雑誌が置いてある。
ある執事の証言によれば、この誰も読まない定期刊行物の費用だけでも一般人の年収を超えているとか。「どのくらいお金を持っているか本人も把握していなかった」ほどだとココ本人も後年、口述しています。
 そんな大金持ちのハートをつかんだココは、ウエストミンスター公爵と10年間交際し、一時は結婚も考えたそうですが、結局は仕事を優先し、別れてしまいます。我々小市民的としては「なんてもったいない」の一言に尽きるのではないでしょうか。
 それだけではありません。その前の彼氏も凄い。
 なんと帝政ロシアの皇族ドミートリイ大公。当時のロシア皇帝の従弟にして、あの怪僧ラスプーチンを暗殺したその人。その後、ロンドンに亡命し、フランスの避暑地でココと知りあうことになります。
 こういったセレブと臆することなく交際できるココ。ならば彼女自身もフランスの貴族の生まれでは? と思われがちですが、事実はその正反対なんです。極貧の生まれ。父はしがないシャンペンの行商人。旅が多く、母が他界してからはココは孤児院に預けられたほど。
 ですから、前述の貴族たちは、まさにココ本人の魅力に魅せられて交際を申し込んできたわけなんです。
 ね、凄くないですか?
 しかも交際相手との体験や、贈られたプレゼントからデザインの着想を得たというココ。そのしたたかさも凄いんですが、それについてはまた別項で。


 男と女の関係だけじゃありません。「お友達」という括りでもココが選ぶ人は凄いんです。
 彼女は才能ある男性を好み、当時の芸術文化の最先端を行く人たちと毎夜、遊び歩いておりました。
 ざっと挙げるだけでも、画家のパブロ・ピカソ、映画監督のルキノ・ヴィスコンティ、詩人のジャン・コクトー、作曲家のストラヴィンスキー、作家のレイモン・ラディゲ、とそうそうたるメンバー。
 当代一の芸術的センスを身につけた男たちを惹きつけたのは、ココ・シャネルのうわべの美しさだけではなく、芯の強さ、頭の回転の良さ、仕事の確かさ、絶対的な気性だったと言いますから、シャネルという女性はやっぱり凄いなと思います。
 ただ、私の憶測ですが、男どもを捉えて離さなかったココのいちばんの魅力は、その「毒舌」にあったのではないでしょうか。世間的に評価されてちやほやされている芸術男はたいてい気性の強い女性の毒舌には弱いものです。クリエイターの男なんてしょせんは夢見る夢子ちゃん。「ファッション・デザインは芸術ではない」と言い切り、「商業的に成功しなくては何の意味もない」と割り切る現実派のココ。彼女から繰り出される毒舌は、きっと夢見る男たちのいい刺激となったに違いありません。
 「シャネル 人生を語る」を翻訳された山田登世子さんの後書きによれば「シャネルの声は一度聞いたら忘れられない。転がり落ちる溶岩のような、激しい声。怒りに満ちて、とどまることを知らず、ほとばしりでる声の奔流」とあります。
 ミュージカル『COCO』でも、その毒舌は健在です。突きぬけてます。江戸っ子です。荒技です。爽快です。台詞を翻訳していてこれほど高揚を感じたことはありません。できれば肉声を聞いてみたい。でもそれは叶いませんので、私たちは舞台で再現される鳳蘭さんのお声を堪能しようではありませんか。



 シャネルが並みのデザイナーと違うのは、女性ファッションにおいて「世界初」のデザイン(いや、スタイルと言ったほうが正確でしょう)が山のようにあることです。
 シャネルが生み出して、今では当たり前になっているファッションの定番を数え上げたらきりがありませんが、その一部だけでもご紹介しましょう。
 まずはパンツルック(スラックス)。男性だけのものだったズボンを女性に初めて転用したのがココ。次に黒いスーツドレス。喪服ではなくファッションとして黒を使ったのもココが初めて。素材としてはニット、ツィード、ジャージー。これらもシャネルが使用して大ヒットしなければ、女性ファッションの素材にはなっていなかったかも知れないらしいですよ。
 そして、これらはすべて先のウエストミンスター公爵との交際を通じて、貴族が使用していたものを「自分が着るために」アレンジしたものが大ヒットしてるんです。ただの貴族の愛人に終わらないところがココの凄さだと思います。(ドミートリイ大公とつきあっている時はロシア風のファッションを取り入れて発表していたらしい)
 特筆すべきはセーラー服ですね。最近はもうセーラー服を着ている女子学生は見かけなくなってしまいましたが、日本のかつての制服の定番も、ココがウエストミンスター公爵のヨットの乗組員が着ているのを自分も着てみたいとアレンジしたのがきっかけ。そして誰かがそれを日本に持ち帰り、制服に導入したらしいですよ。ま、一説ですけど。
 その他にも、金ボタン、リボンの髪飾り、パールのロングネックレス、チェーン・ベルト、ショート・ヘア……などなど、本当に数え上げたらきりがないくらい、ココが生み出した当時の革新的なスタイルは、今では本当に当たり前のように女性のファッションとして生き残っているんです。こんなファッション・デザイナーは他にいない。らしいです。
 これらのスタイルがどういう経緯を経て産み出されたのか? そのエピソードの一つ一つがとてつもなく面白いんですけど、それはミュージカル本篇をお楽しみに。


 私がまだ小学生のころ母親が「世界一の美女マリリン・モンローがつけていたのと同じ香水よ!」と大はしゃぎしていたのが「シャネルの5番」でした。といっても母親が手にしていたのは、どう見てもミニボトルというか試供品のようではありましたが。
 そんな母に「5番よりも、1番とか2番のほうが良い香水じゃないの?」と質問した覚えがあります。母の答えもいい加減で「1番目に作ったよりも良いものが2番で、それが順繰りに来て、今いちばん良いのが5番なんじゃないの」と教えてくれました。それ以来、それを信じて生きてきた私ですが、シャネルのことを調べて初めて、それが嘘だということを今さらながらに知りました。
 有名な香水調合師を紹介されたココは、自分の好みの香水を作るよう指示します。そうしてできたのが、シャネルブランド初の香水「シャネルの5番」なんです。ネーミングの理由はココが「5」という数字が好きだったから。それだけです。
 うちの母のように「シャネルの1番」から「シャネルの4番」もあると信じているオバちゃんは当時多かったのではないでしょうか。そういうふうに思わせるのもココの商売人としての才覚のひとつのように思えます。
 補足すれば、本当に凄いところは、それまでは「エレガント・パリジェンヌ・ムスク」とか「森のささやき小鳥のさえずり」とかいう長ったらしいネーミングばかりだった香水業界にあって、「5番」というシンプルな番号だけの商品名は革新的だったこと、加えてそのボトルのデザインがとてつもなくシンプルだったこと。このシンプルさにおけるエレガントこそがココの真骨頂……らしいですよ。


 ココ・シャネルは30代で脚光を浴び、50代には業界の女王として君臨します。そして55歳のときに引退します。
 ここまでは順当な成功者の人生マップですね。
 ところがシャネルがやっぱり並みの女性と違っていたのはここからなんです。
 15年後の1954年。70歳の時に「ファッション業界へのカムバック」を宣言してしまうんです。周囲の人たちも流石にこれには猛反対。なにしろ完全なブランクが15年。パリのファッション業界もすっかり様変わりしており、ココ本人はと言えば夜なべ仕事もままならぬ年齢。
 当時のファッション業界を席捲していたのがクリスチャン・ディオール。彼はココ・シャネルが作った新しい女性のファッションを、再び復古調に変えてしまっていました。
 ココからするとそれが気にくわなかったのかもしれません。再び自分が作り出したスタイルを奪回せんとばかりにニュー・コレクションを発表することになります。
 それらはココが引退した15年前と変わらないスタイルを踏襲したものでした。
 さて、いったい、この無謀な挑戦は成功するのか?
 その答えが、ミュージカル『COCO』で描かれているのです。本作品では、カムバックを宣言してから、ニュー・コレクションを発表するまでが一幕。二幕目でその反響がどうなったかが描かれています。私は、台本の次のページをめくるのさえもどかしいくらいにこの物語に魅せられてしまいました。最後の最後までハラハラする展開。信念を貫くココの姿勢に対して冷たい態度のパリのマスコミ、高齢による体調の悪化、コレクションを開くことさえ危ぶまれます。そしてラストに待っている意外な結末。最後の最後まで息のつけないミュージカルなんです。
 え? 今、シャネルブランドが残っているっていうことは、その挑戦は成功したってことだろうって? そりゃあ、まあ、そういう見方もあるでしょうけれど、現在のシャネルのデザイナーは、カール・ラガーフェルドですから、ココの晩年のデザイナーとしての評価がどうであったかは分からないわけでしょ? つーか、そういうことは忘れて物語に没頭しましょうよ。
 とにかく70歳からのスーパーおばあちゃんの活躍。ぜったいにお気に召していただけると信じております。ぜひとも劇場にお運びください。


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