横田あつみプロフィール:(よこたあつみ)88年より妹尾河童氏に師事し舞台美術を学ぶ。99年、第10回五島記念文化賞オペラ新人賞を受賞。ロンドンを中心に約260都市を巡り01年帰国。02年読売演劇大賞優秀スタッフ賞、伊藤憙朔新人賞を受賞。主な作品 オペラ『欲望という名の電車』『仮面舞踏会』など。G2作品では『地獄八景‥浮世百景』『開放弦』『ハンブル・ボーイ』など

古川雅之プロフィール:(ふるかわまさゆき)日本大学芸術学部演劇演劇学科舞台装置コース入学。在学中より『花組芝居』『自転車キンクリート』などの舞台装置を手掛ける。90年には花組芝居『ザ・隅田川』で日本舞台テレビ美術展文部大臣賞受賞。主な作品『西鶴一代女』『花たち女たち』など。G2作品では『ジェイルブレイカーズ』『女中たち』『MIDSUMMER CAROL』など 加藤ちかプロフィール:(かとうちか)愛知県出身。多摩美術大学卒。劇団第三エロチカに8年スタッフとしてして在団の後、フリーで舞台美術家として活動。1999年、読売演劇賞、最優秀スタッフ賞受賞。主な作品に阿佐ヶ谷スパイダース『はたらくおとこ』、ナイロン100℃『フローズンビーチ』など。G2作品では『仮装敵国』『しかたがない穴』


――演出家とどんな話をしながら舞台が形になっていくんですか?
古川 前からG2さんの名前は存じ上げていたんですけど、最初にやらせていただいたのは「三軒茶屋婦人会」。はじめは「どんな方なのかなー」と手探り状態で話していった感じですね。

――それはどんな舞台が好きか、を探る感じなんですか?
古川 もちろんそれもありますし、どんな靴をはいてるのかな、とか。

一同 へー。

加藤 相手の趣味を見る、ってところありますよね。

古川 ありますね。他の人と会話しているのを聞かせていただいたりして。ずっとおつきあいしていると、こう言えば、ってわかるんですけど、初めての方だと、そういうのがわからない。だから最初はしばらく観察させていただきました(笑)。でも結局、あんまりホンの話とかしてない。ムダ話ばかりしてる(笑)。

加藤 それでサクサクと決まるっていうのはすごい。

横田 かっこいいですねー。私、ムダ話なんかしたことありません。

古川 もちろん重要なことはポイントで話しますけど、あんまりホンについてって話をしたことがない気がして……なんか申し訳ないな(笑)。

加藤 私はね、ご一緒させていただいのが、倉持(裕)さんの難しいホン(『しかたがない穴』)だったんですよ。あと、オムニバスの『仮装敵国』とか……けっこう戯曲の解釈に「んー」って悩むような作品で、ご一緒することが多いんですけど。

横田 でも加藤さんには、そういうのを、さらっとやってられるようなイメージがありますよね。

加藤 最終的には、さらっとなってるんですけど。

横田 かっこいいー。

加藤 でも、ホントはあつみさんが本多劇場でおやりになったのとか(『キャンディーズ』)、古川さんがおやりになったような、一場をきっちり描き込むほうが私も得意なんですけど。だからお二人がうらやましい。

横田 ひとのはよく見えるんでしょうね(笑)。私の場合、一杯道具しか頼んでくれない。

――「一杯道具」?
横田 開幕から閉幕までひとつの装置で進行することで、それは飾り込めて楽しいって言えば楽しいんですけど、「一杯道具はあなた」って言われると、ちょっとエーっと思ったりして(笑)。

古川 うらやましいな(一同笑)。

横田 私も好きなんですけど。でも、ちかさんのようなフットワークの軽い感じっていうのが、あーやっぱり私は苦手なのかも、って思ったり。

古川 どこでやってても、場面転換がいっぱいあるやつばかりやらされるんで、一杯道具がいいな、ってずっと思ってるんですよ。


――古川さんが最初にG2とやられた『ヴァニティーズ』は確かに場面転換が多かったですね。
古川 三人しか出ない芝居で、出づっぱりでそこで着替えも全部するっていうことでしたので、なるべくシンプルに、収納家具にしようかなっていうことで、ベッドでもなんでも引き出しから出てくるというようなのをつくろう、というぐらいのことでしたね。

加藤 それでもちゃんと空間を埋めてるからすごいと思って。『女中たち』は?

古川 『女中たち』は、もうトラス(三角の構造体)を組んで、八角形にするっていうそれだけで……あと、いろんな劇場へ持って行くんで、どこ行っても合うものを、っていうズルい計算で。

加藤 壁が動いたの、おもしろかったよね。

――壁を揺らしたい、なんて言われると、どうなんですか?
古川 僕、いろんなことを言われるほうが好きなんで。あんまり悩まないで、「あ、じゃ、揺らしまーす」って(一同笑)。

『女中たち』より
見よ。このゴージャス感溢れるセット。(左はデザイン画)
壁は全部、上のトラス(銀色の金属の格子)からテグスで吊られています。
花の置き場所を変える、ということも装置転換のひとつ。
装置は関係ないんだけれど、
今までの写真に深沢さんが写ってなかったのでもう一枚。

 





――みなさん、ほかの人の舞台を見られるときは、やはりセットに目が行きます?
加藤 気になって見てます(笑)。

横田 台本が良ければセットは気にならないんですけど、台本が「んー」っていうときはセットばかり見てるかもしれない(笑)。

古川 僕は人のを観てるときは、あまりセットは見てないですね。普通に楽しむのが好きなんで。昔は確かに結構気にしてたんですけど、年を取ったせいか、気にしないようにしてます。

横田 かっこいいー。いつかそうなりたい。

加藤 気にするつもりはなくても、なんか自分の読み方と違うな、って感じると、見ようと思ってなくても見ちゃう。たとえば、仕掛けが見えると、どこでこの仕掛けをやるんだろうって気になっちゃって(一同笑)。なにかひとつ引っかかると、それがどう転がるのか、ばかりが気になって目で追ってたりするんですよね。セットがないと役者だけ集中して見てるんだけど。自分がセットに目が行っちゃうから、役者を見せたいときに、セットをシンプルにしちゃうクセがちょっとありますね。

古川 いいお芝居で、いい役者さんだったらセットいらないですもんね(一同爆笑)。

横田 つねづね、そう思いますよ(笑)。

古川 それだと仕事にならないけど(笑)。でも、G2さんのお芝居じゃないですけど、実際、「これ、セットいらないですよね。床だけ敷きますか?」って言ったこと、ありましたよ。

加藤 あつみさんは、師匠が大御所(妹尾河童)だし、かなりガツンとつくり込まれますよね。

横田 そうなっちゃうのが、いやなんですけど(笑)。ちかさんのような、潔い世界をやりたいって思うんですけど。

――G2の弁によると、横田さんは「日本人の情緒に訴えるようなものになりそうだ」と思ったときにお願いする、と。『ハンブルボーイ』にしてもイギリスの作品ですが、日本的な心象風景を描きたい、ということでお願いした、とか……。
古川 和の心ですね。

加藤 古川さんは?

――古川さんは、場面転換が装置ものになりそうだというときにお願いする。
横田 やっぱり場面転換か。加藤さんは?

――『しかたがない穴』のときには文芸モノになりそうということでお願いしたようなんですけど、ホンが数学的で……。『仮装敵国』のときには、ホンを書いていただいた方々とお仕事をされていたので……
加藤 『仮装敵国』で期待されていたのは、道具で引っ張っていくことだったんですけど、それぞれホンを伝えるために、すぐにまとめに入ってしまったことは反省しているんです。ハジケさせるには、困難を乗り越える作業をしないといけなかったんですけど、自分で自分に困難を与えるのってむずかしいじゃないですか。演出家も、やっぱり最後はまとめなきゃならないから、二人で「んー」ってなっちゃって。

横田 ちかさんって、ハジケてるっていうのが、あこがれですね。私はきまじめな職人タイプだなって、よく思うんですけど(笑)。

加藤 私もまじめなんですけど(一同笑)。でも、通常こうだろう、っていうところを外したいっていう気持ちがいつもあって。そうは言っても、戯曲の中で書かれていることと、G2さんがおっしゃってることを裏切るということではなくて、そのなかでどう遊ぶかという……

『しかたがない穴』より
吹き抜けのロビー以外はすべて同じ形の部屋という設定。
(左)こちらはロビー、上にライトが点灯することでそういう雰囲気を出しております。
(右) こちらは各室。壁に間接照明が当たります。
また、クライマックスにはインパクトたっぷりの仕掛けが用意されています。そちらは見てのおたのしみ。

『仮装敵国』より
7話の話をぜんぶ収納するために、「前後に動く壁」が装置の要。写真でその表情の違いをご鑑賞ください。
これ客入れ。長いすに見えるのは1話でベッドになりますが……実はここに仕掛けがすでにしてあったんですねえ。 長塚圭史作の第1話
死体はどうやって消えたと思います?
転換中
走る八十田勇一。なんかっこいい写真になってますね。
転換中
ちょっとね、フィリップ・ジャンティーを意識してみました。
故林広志作の第4話
壁が前に。ベッドがデスクに。
後藤ひろひと作の第6話
壁は動いてこんなふうにもなる
   
なぜか番組スタッフは赤い衣装
第7話 ケラリーノ・サンドロヴィッチ作
   


――ご自分の作風の、ここがいい点っていうのは? 言いにくいかもしれませんけど。
横田 いい点が悪い点だったりする(笑)。

加藤 こだわっちゃうところ?

横田 そうですね、こだわったちゃいますね。この設定にはこれしかない、みたいなところがあって、それを押し通しちゃったりして、まずかったな、っていうこともあったり……。

――こだわるというのは、素材とか、色とかに、ということですか?
横田 素材とか色もそうですけど、たとえば『ハンブルボーイ』なんかは地方の感じをすごく出したかったんです。質感というより、その世界の空気感というか……。

加藤 そうですよね。絵のディテールよりも空間の空気感をデザインしているところがありますよね。

 











――その空気感というのは、どの時点で浮かんでくるものなんですか?
古川 まず、もちろん劇場を見て、あと出演者と……僕、あの、台本は1回しか読まないんで……。

加藤 それでこれだけできるなんて、天才じゃないですか!

古川 そのかわり、その1回はビシッて読みますけど。何回も読まないで、最初に思い浮かんだものを大切にしたいので、何回も読むと、誰かが確かこんな感じでやってたとか、そういうのがあれなので。いちばん最初に読んだときの印象だけで……。

横田 すごい。それで転換ができるなんて。

加藤 私、逆なの。私はだらだら読みなの。最初は飛ばし読みで、その後にもうちょっとここが読みたいなっていうところをまた読んでいく。人の接近の仕方と同じで、そうやって、繰り返し出てくるものに引っかかっていく感じ。あつみさんは?

横田 私はまず、ドッと読んでしまって、また読み直すって感じですね。それで、モノによりますけど……いちばん初めのト書きに地方が詳しく描き込んであったりすると、それだけで、その世界にドドッて入っていきますね。

加藤 私、外と中があったり、別の空間や時間があっても、バテン(場面転換)をしたいっておっしゃらないと、すべての場がバテンなしでできる図面をよく描くんです。G2さんは、芝居のメリハリを含めて、お客さんに伝えるべきものは伝えるという、親切でわかりやすいということを求められるので、それにはこたえるようにしていますけど。何場もあるときって、それがたたみこめないと、一場一場の成立だけを考えるとそれぞれ背景画みたいになっちゃうから、作品の中で、全場共通でどう一本通せるかな、ということに、自分の中でいつも悩みますね。

古川 最初に読んで、G2さんと話してると、僕の中で飛んじゃってるシーンがあるんです。あー、そういうシーンありましたね、っていう。でも、飛んじゃってるシーンっていうのは、どうでもいいシーンかな、って勝手に思っているんです。こっちでも間に合うでしょう?って。場面転換をあんまり考えずに読んでるんですね。『ヴァニティーズ』だと、役者のお三方を知ってるので、この人だったら、こっちから出てきて、このへんで止まってこのセリフをしゃべるだろう、そのときにこっちを向いていて、この方はここにいて、これ以上近づかないだろうとか……

加藤 えーっ、当たります、それ?

古川 だいたいは。

横田 えー、すごーい。

古川 それしか考えてない。だから、ここに暖炉が必要だとか、窓が必要だとかって決まる。なので、G2さんと話すときは、「窓、ホントはこっちですよね、このホンは。でも、この窓の位置とこのドアの位置と、どっちを優先したいですか」って、そういうことしか聞かない。あとのまわりがどうなるということは、そのあとのことで。




加藤 そっかー。あたしなんかは、それを思いつくと意地悪したくなっちゃうのよね。思い浮かんだその絵じゃない、ほかの形もあるんじゃないかって。でも、演出家とすりあわせるなかで、「それほど奇をてらってはいないよ」っていうことで舞台まで行かないことが多々ありますけどね。でも、演出家と役者とホンを見て浮かんだものを単に形にすると、なぞっちゃいそうな気がする。迷わないものを持ったら、次が出てこなくなるんじゃないかと、怖くて、だから、一回それを捨てるんですよね。だから、読むときもディテールを覚えておかないために断片読みしかしなくて、そのなかで自分からはみ出たところで落ち着きをもったときにガーって読んで、固める。

横田 へー、なんか、かっこいいー。

加藤 あつみさんは?

横田 たいていヒントをもらうんですね。どう読んだらいいですかって。自分だけで行っても世界が決まってしまうので。たとえば、『キャンディーズ』の場合は、工場であるんだけど、あったかいと。「トタンだと冷たくならない?」って言われたので、この時代、ピンクのトタンってあったので、レトロな感じで時代も出るかなーって。

『キャンディーズ』より
「キャンディーのような石けん」を作りたいと願った職人のお話。
同じ工場だが、20年間の時間を行き来する構成。
石けんを茹でる鍋は、実際に石けん工場を見学したが、見た目重視でデザインしてもらった。
左は制作中の資料のひとつ、実際の工場の写真だが、芝居に登場するものよりも機械化が進んでいた。



――横田さんは『地獄八景‥浮世百景』では、すべての浮世絵も描かれたとか?
横田 ええ、死にそうになりましたよ(笑)。各場面、建物やら家具やら描き込んで、28景もあったので。でも、北斎そのままを使ったところもあって、北斎にはずいぶん助けられました(笑)。一杯道具の私には珍しく、28景もあって、ヒントをください、って言ったら、「各景、これを見せたい」というのを出してくれ、って言われて。でも28景もあるから、転換を考えて出したら、G2さんは「転換なんかどうでもいい。絵としてこれを見せたいという絵を出せ」と言われて……。でも、転換にやっぱり引っ張られちゃうので、うまく方向性が見えなくて。G2さんが「じゃ、転換はこうするよ」っていうのを描くから、それをどう絵にしていったらいいかを考えてって。

加藤 えーっ、転換を描かれたの?

横田 そうなんです。かわいい秘蔵のスケッチがあるんです。

加藤 意外とバテンの提案て、美術家が出す場合もあるし、演出家が求める場合もあるし、いろいろですよね。古川さんは結構お出しになるんでしょ。

――『ガマ王子vsザリガニ魔人』の2階がカパって開いちゃうのは?
横田 あれは、すごいですよね。

古川 カパっていうのは、あれですけど、最初からG2さんも「これは2階だね」と意見は合ってましたからね。

『MIDSUMMER CAROL ガマ王子vsザリガニ魔人』より
すべての場面がやれる装置。病院の待合室、中庭、病室へ通じる通路、
2階の壁パネルが上昇すると、その時々に診療室やパコの病室などに変わる。
下手の一階の建物の壁がセンターにずずっと動いてくると……。

あの部屋になるんです。

 




加藤 ジャストフィットすると転換ってすごく気持ちいいんだけど、迷いだすと選択肢って五万とあるから。最近は演出部の人数とかで、やりきれるのか、っていうことも考えないと(一同爆笑)。

横田 でも、やりきれるってことばかり考えると「ちがう」って言われるし。むずかしいですねー。

古川 やれる範囲って、だいたいわかるじゃないですか。だから、ちょっと無理させるぐらいのところで。サッカーの昔の中田のスルーパスのように、「そこまで行ける? そこで取って」っていうような。

加藤 すごいわー。

 





――最後に、美術家の仕事をやってらっしゃって、いちばんのおもしろさというか、楽しみをお聞かせください。

古川 観に来てくれたお客さんが、その間、夢を見てくれるわけじゃないですか。会社でやなことがあったり、彼氏と別れたりとかあっても(一同笑)、 舞台を観てるときは夢の空間に入ってもらえるじゃないですか。それがいいなあと思ってやってますね。

横田 私は、芝居が好きだから。役者は無理として、舞台美術でなくてもいいんだけど、芝居が好きだからやってるって感じ。

加藤 私はお酒を飲みながら芝居の話をするのが好きだから。だから、お酒が飲めなくなったら舞台美術の仕事もやめるわ。

横田 かっこいいー。

古川 加藤さんがいちばん王道かも。でも、だんだん年取ると飲めなくなってくるよ(一同笑)。



今月のMonthly Shopでは話題にあがった作品のDVDを販売中! どうぞご覧ください

只今上演中の『憑神』の装置の裏話! 美術家・金井勇一郎インタビューはこちら

G2プロデュースHP総合トップへ