2月28日(月):初日!  
 あっという間にこの日は来た。「キャンディーズ」の初顔合わせ&読み合わせ。
 何度経験しても、この新しいカンパニーのメンバーが続々と集まってくるこの瞬間の緊張感は堪らない。プロデューサー大西からのメンバー紹介のあと、作・演出の私の挨拶。いつもなら「まだ台本は半分ですが……」と言い訳気味になるところが、おっとどっこい、今回は1年前に台本は書いてある。そんな言い訳は不要……のはずが、役者全員に「皆さんの個性をさらに生かした第二稿を書きます」と豪語してしまっていた。結局は「第二稿は残念ながら、三分の二しか書けていません。頑張れば書き上がりましたが、頑張りませんでした」と挨拶。むむむ無念。
 読み合わせは順調。久々の山西惇は、いつもながら初読み合わせですでに完成の域。ケチ社長のキャラクターはすでに出来上がっている。新谷・廣川のナイロンコンビが、笑いのツボは決してはずさないぞ。という読みで、カンパニーの爆笑を得ていた。流石である。
 残念なのはスケジュールの都合上、読み合わせの後、飲みに行けなかったこと。だって終了15時だもの。しかし……そんな終了時間でも、飲み組がいたことが後で発覚。うむ、恐ろしいカンパニーである。
3月3日(木):脚本家モードで  
 1日、2日といきなり連休。が、私的には第二稿執筆で休みなし。今朝も7時起きで、13時の稽古まで執筆。でも順調。うん、これは明日、エンドマークが出るな。
 あまり人には言えないが、執筆が順調なときは、あまり演出には身を入れない。なるだけ「脚本家モード」のままでいるためだ。だから、どちらかというと、稽古を傍観してる。
 今日は、第一景を飛ばして、二景と三景をざくっと合わせる。私は読み合わせを長々としないタイプなので、今日からもう立ち稽古である。石鹸工場の大きな釜の仮組みが稽古場に出現している。勢いを出したかったので、工員たちの人数は多い。十人くらいが狭い工場で立ち稽古していると、結構な団子状態。「あー、これは立ち位置の整理が大変だなー」と思う。が、今日はまだそんな整理はしない。
 その人数の中でひときわ目立つのが、内田滋くんのテンションの高さだ。テンションの高さ一本に賭けてるらしく、無意味なほどのそのテンションの高さは、なんか面白い。実際けっこう笑えた。
 稽古終了後、音楽の佐藤さんとの打合せ。佐藤さんの曲はほんと心洗われる。きっと佐藤さんの心がキレイだからだと思う。それに比べて、私の心も、今回の作品もそんなにキレイなモノじゃないので、「もっと汚して」とお願いする。
3月4日(金):ハセガワエンジン全開  
 どうやら、風邪をひいたらしく朝7時の目覚ましを止めたら、足元がふらふら。これはいかんと布団に戻る。そのまま稽古直前までご就寝。やばい、第二稿は止まったままだ。
 今回のお芝居は、現在と過去を行ったり来たりする構成で、今日は、過去の部分を集中的にお稽古。
 社長と親方との口喧嘩が、この芝居の見せ場の一つでもあるのだが、いやー、いいすね。山西惇と久保酎吉のセリフの応酬を見るだけでも、この芝居に来て良かったと思わせるものがある。かくいう私も「体調不良をおして稽古場に来てよかった」と思ったもの。ここまで聞き惚れることができる口論がほかにあるだろうか? これを聞くのを楽しみに稽古場に通うことになりそうだ。
 今日は、長谷川朝晴くんのエンジンが全開だ。前半でライバル永井との奮戦中、かまどの熱さに耐えられず、服を脱いでフンドシだけになるシーンがあるのだが、立ち稽古の一回目でいきなり本当に脱ぎだして、パンツ一丁に。共演の草野徹さんも合わせないわけにもいかないので、やむなく脱ぐ姿が面白かった。そのフンドシ姿を見て須藤ちゃんが「きゃっ!」という台詞が、本当に自然に出て来て、今日は長谷川君のやる気のヒートアップにみんなつられて稽古場は熱くなった。長谷川朝晴は今回はマジだ。で、私の体調不良も治ったような気がして「明日は脱稿パーティーやるよっ」と言ってしまった。
3月5日(土):熱川温泉へ逃亡!?  
 今日は14時から稽古だと言うのに台本が書き上がらない私は、熱川温泉に逃げていた。時計を見たら14時30分だ。みんな困っているだろうな。どうして、こんなところに逃げてきてしまったのだろう? なぜ自分は台本を書いていないのだろう?
 と、後悔し始めたところで目が覚める。時計を見たらまだ7時前だ。神様っ! 超スピードで身支度をし、近所のファミレスへ。そう、私は朝型でしかもファミレスでないと執筆できないのさっ。
 昨日の長谷川君の勢いを借りて、猛スピードで台本を書く。奇跡的に13時ごろ完成。あの悪夢を見なければこれだけ頑張らなかったと思う。変な体験だ。
 今日は、昨日の過去の続きを少し進んだあと、稽古初日以来全員でテーブルを囲んでの第二回の読み合わせ。新しく書き上がった最後の三分の一だけではなく、最初から読み始める。全体の流れを掴むためだ。
 いやー、良い読み合わせだった。じーんと来た。
 スタッフで密かに涙していた人もいたらしい。かくいう私も実はあるシーンで本当に涙が出てしまった。自分の書いたセリフで泣くなんて、と思う方もいるかもしれないが、役者の力は凄いのだ。
 上機嫌で酒場へ。今日はほぼ全員そろって「みちくさ」へ。
 自然に「親父組」と「若者組」に別れる。もちろん私は不本意ながら「親父組」へ。
ゆったりとじっくりと芝居の話ができた。あとで「若者組」のほうにも顔を出したけれど、ぜんぜん話についていけなかった。ショック。
3月6日(日):大雪の日  
 昨夜、身体を焼酎漬けにしたから風邪を追い出せたろうと思ったら、またまた午前中寝込んでしまった。私は21時以降は飲酒時間なので、朝がこうやって潰れると仕事がたまってしまう。ちょっと憂鬱。しかも、大雪。稽古休みにしてもいいんじゃないか? と思ったりするひとときを満喫したあと稽古場へ。
 今日は過去を総ざらえ。そう、山西&酎吉のセリフが聞けるというだけで稽古場に出ることができた私。こういうの大事。
 今日は一気に過去のクライマックス前まで行く。稽古期間のまだ前半なのでまだ、このシーンの気持ちへは到達できないだろうけれど、一度近くまで来ておくのも大事。と、須藤理彩と長谷川朝晴の超・くんずほぐれつのキス&ラブシーンのあたりまでやる。
 二人の男性の愛に挟まれて、取り乱す須藤。それをがっと抱きしめ、唇を奪う朝晴。ってなことになるはずのシーンだけれど、まあ、まだセリフも不慣れ、照れもあって、ぎごちない。一応、長谷川くんに「君、美千子(須藤)のこと好きじゃないように見えるよ」と突っ込んでおく。
 その場面の稽古で本人の意志とは裏腹に、須藤ちゃんが本当に大泣き。自分の芝居が上手くできない口惜しさと芝居上二人の男に挟まれるジレンマがごっちゃになって、役の美千子ではなく、須藤ちゃん本人がパニック、全く台本にない台詞を口走って朝晴くんの胸でマジ泣きしてた。須藤ちゃんのピュアな一面をかいま見ることができた稽古だ。今後のこの場面の成長が楽しみである。
3月7日(月):菅原永二登場  
 今日は、久々に過去ではなく現在のシーンの稽古。ま、現在と言っても昭和30年のことなのだが。そして、今日の稽古シーンから昭和30年には菅原永二君が登場する。今回、ハートウォーミングなお話で、どちらかというとそういうイメージの役者が集められている中、猫ホテの彼は異色である。
 でも、その異色具合が面白い。工場閉鎖に反対して、できたばかりの労働組合法にのっとり会社と闘おうとする工員たちを取材するラジオ局員の役なのだが、これがまた、いいカンジでヘンなのだ。そして浮いていない。これはナイスキャスティングというよりも、菅原君の適応力のすごさなのだろうと感じた。なんか病的でムカツクキャラクターを演じることの多い菅原くんが、この「キャンディーズ」でも持ち味を発揮しそうだ。あ、でも素顔の彼はぜんぜんいい人ですよ。
 稽古後、衣装打合せ。今回は、二つの時代を行き来し、しかも昭和。私の苦手な時代である。さてはて、どんな衣装になることか。楽しみと不安の入り交じる私であった。
3月8日(火):長谷川、草野の抜き稽古  
 今日は、現在のシーンを軽くあたった後、15時30分に役者のほとんどを帰してしまって、ライバル関係にある渡部(長谷川)と永井(草野)の二人の場面を重点的に特訓稽古。
 長谷川くんはジョビジョバ出身(あ、解散してないから出身じゃないのか、まったくジョビの人は坂ちんもそうだが表記がややこしい)だけに流石に笑いへのセンスと直感と瞬発力は抜群だ。どんなに地味なシーンでも派手チックな笑いの取れる方向へ簡単にジャンプできる。が、今回、それをやると「寡黙な職人」像が壊れてしまう。いかに「マジに生き」てる姿におかしみが出るかに挑戦してもらっているし、本人も相当、そこに力を入れている。が、このライバル永井とのシーンはどうもコミカルで、そっち方向に大きくブレがち。そこをどうバランスをとって行こうかというのが今日の狙いだ。
 一方、草野演じる永井は、最近、稽古場のアイドル状態。だって、何をやっても面白いんだもん。すんげえシリアスなシーンで「渡部? お前」という台詞を吐くだけで稽古場は大爆笑。何かちょっと、「ズレ」ているのである。そのズレを修正するのではなく、うまく芝居に取り入れてやろうと、四苦八苦。抜き稽古は疲れるのである。稽古が終わった21時には私はちょっとした「抜け殻」状態になった。だから、酒場へは今日は休み。噂によれば、昼の3時30分に稽古場を帰した人たちが、まだ飲んでいるという。げげっ。恐ろしや。アルコール蟻地獄がそこかしこにあるカンパニーだ。注意せねば。
3月10日(木):ひみつの仕掛け? 
  今日は現在のシーンをあたる。中盤戦のクライマックスは、竹下宏太郎氏の演じる工場長がキーだ。なにしろ、「あの人望の厚い工場長がなぜ?」という疑問が明かされていく場面だ。そしてヒロイン美雪の、そして工員たちの大ピンチに繋がっていくという大事なシーン。私は、宏ちゃんに「山のように動かないで、そう、『太陽にほえろ』のボスのように」と説明したが、宏ちゃんは「ああ、菅原文太のように、ってことですね?」。宏ちゃんは裕次郎ではなく、文太派らしい。とにかく、竹下宏太郎が動かなければ動かないほど、板挟みと切なさとサスペンスは盛り上がっていくという寸法なのだ。
 稽古中、特効さんがやってきた。ラストシーンの仕掛けのチェックだ。どんな仕掛けかって? それはもう絶対ひみつ。上演開始されて、観た人も、まだ観ていない人に絶対言ってはいけないよ。そして、そのテストは……大成功! 稽古場の役者たちからも「おおっ」と歓声があがっておりました。
3月11日(金):パンフレットには、赤裸々な恋愛トークが……。  
 いよいよ、稽古も佳境。というかラストシーンまで進む。「え、稽古スタートしてまだ二週間も立っていないのにラストシーンやっちゃうの?」「早いねー」との声が役者から漏れる。そうなのだ。他の演出家に比べて、稽古の進行が早いらしい。気になることもあるのだが、ある程度にしておいて、とにかく最後まで行ってみる。そのほうが全体像が見渡せて、役者にもいいんじゃないか? というのが私の考え方。(早すぎてついて行けなくて、ストレスが貯まる人もいるらしいけれど……)
 さあ、今回の「キャンディーズ」。ラストには、様々な仕掛けが満載。特効的な仕掛けもあるけれど、ストーリーにまつわる様々な謎が解けた一瞬は、たぶん鳥肌ものになるはず。そして、このあたり、ベテラン役者たちの見せ場が満載っ! 職人芸をご堪能ください。
 稽古終了後、パンフ用の座談会。ビールを飲みながらの気軽な雰囲気で大いに盛り上がる。っていうか酒場トークで盛り上がるのとどう違うのかしら? っていうくらいなにか盛り上がる。陰山泰さんや、久保酎吉さんらの意外なエピソードも聞けたし、何よりも各人の恋愛トークが炸裂して、「えー、そんな話、パンフレットに載せていいのー?」なエピソードの連続でした。大丈夫かな? みんな。


3月12日(土) 後ろ半分の通し 
 さて、今日は後ろ半分の通し稽古。前半分の通しをする前になぜ後ろ半分なのか?
 ま、そんな気分だったから。とだけ言っておきましょう。
 とにかく今回の後半は圧巻ですぞ。特に最後の30分間は「じーん」としっぱなしになること請け合い。だって、書いた本人が今日「じーん」としちゃったんだから間違いない。話のスジどころか台詞のディテールまで知ってる私がですよ。
 さて、最近の須藤理彩の成長が目覚ましい。思った以上に素直で勘の良い子だ。その場面でのヒロインの心情のツボを話すると、もう次から芝居が変わっている。演出家の言うことを一字一句漏らさないどん欲さ。そしてなにより、相手の台詞を聞く須藤ちゃんの顔。これほど相手の台詞の一言一言を真摯に受け取る女優さんも珍しい。受容力が大きい。良いモノが入ってくれば芝居も俄然良くなる。このまま進めば、本番がかなり楽しみ。
 稽古後、音響&音楽打合せ。佐藤さんが全曲あげて来たので、ほっとする演出チーム。これで井上さんの音響マジックが付加すれば……いやいや、こっちのほうも楽しみ。


3月13日(日) おかしな会話
 さて長谷川朝晴君である。すごいよ。素晴らしいギャグセンスの持ち主であることを、稽古場に一緒にいると実感する。だいたいラブストーリーを担う役なのに、ついつい笑いを取ってしまう。今のところ彼によって稽古場はいつも大爆笑だ。その、ひとつひとつがあざとくなくナチュラル。だから笑えてしまうし、本人も「笑いを取りに行こう!」という気はないのだそうだ。
 が、そこが逆に大問題。シリアスなぐっとくるシーンでも笑いを取ってしまうのだ。相手役が少しでも何かおかしなことをしてしまうと、すぐ反射的にツッコミを入れてくる。しかもアドリブ台詞を入れるのではなく、与えられた台詞通りなのに、それがツッコミのニュアンスに変わるのだ。
 あまりにもナチュラルだから見過ごすことも多いのだが、たまに「笑いは要らないよ」というと本人、かなり深刻な顔で「どうすれば笑えなくできますかね?」と真剣そのもの。「キャンディーズ」はコメディーな芝居でもあるから、この会話はなんか変。でも、今回長谷川くんはストーリーを背負う役どころに徹して、本格的なお芝居に挑戦している。そして、一歩ずつそれは達成されて行ってる。がんばれ朝晴。


3月14日(月) 昭和に詳しくないリーダー
 今日は、久々に現在の稽古。ま、現在と言っても昭和30年なのだが。昭和30年って案外難しい。今とどう違うかってのが、微妙なのですね。少なくとも引き籠もりとか、陰湿ないじめとかはあまりないのだろう。そして、携帯は持ってないだろう。とか、意外とそういうところしか拠り所がない。コミュニケーションは今よりもハッキリとしていたと思う。だけれど、男女のコミュニケーションは今よりもずっと違ったものだったはず。ちなみに昭和30年は、電気洗濯機が登場、ラジオ東京(現在のTBS)がテレビ放送を開始。チャップリンが来日。川端康成が雪国を書き始める。という時代。翌年には「もはや戦後ではない」宣言。意外だったのは、当時「デート」のことを「ランデブー」と呼んでいたこと。演劇雑誌などのインタビューで「なぜ昭和30年なのですか?」と聞かれる。実は昭和とか大正とか日本の近代に強いわけではない。ただ、石鹸の話を書くには昭和30年じゃないとダメだったのと、あとは、昭和30年なんだったら、今じゃ恥ずかしい話も書けるだろう。という読みもなかったわけじゃない。そういうワケで、昭和に詳しくないリーダーを筆頭に、四苦八苦の稽古が今日も続く。


3月15日(火) SK
 ラブストーリーというからには、やっぱり、なんていうんですか、ラブシーンというものが存在するわけですね。すでにラストまで全シーン一度は稽古してはいるのですが、実はラブシーンに関しては、「寸止め」状態。須藤ちゃんと朝晴くんの役作りと、役へのテンションがもう少し高まった後で、しっかり稽古しよう。と思っているからなのです。が、今回は、ただキスするだけではなく、「くんずほぐれつ」の、格闘技か? 寝技か? とも思わせる「肉体的な」ラブシーンを考えてたりしまして、これは、やはり「振付」とまではいかなくとも、だいたいの動きを決めなくてはなりませぬ。
 そういうわけで、こう抱きしめたら少し抵抗して逃げて、でも捕まえて、そこでキスして、熱い抱擁になって、で、なんか倒れ込んだりして、で、相手を求める手が、そして足が……というふうな動きを、なんかみんな冷静に、ああだこうだ言いながら作っていくのですが、そのなんか冷静さとか、「そこで一瞬のキス。長いのではなく、一瞬。ショートキスだから、SKと呼ぼう」ということになると、みんな、「ええと、どうだっけ、ここでSK?」「いやいや、抱きしめてからSK」などという会話を大まじめにしてたりして、きっと知らない人が見たら、なんだ? と思われるに違いない。そんなみんなが好きですけどね。

3月17日(木) 「あっけなく」なふたり
 いよいよ明日は初通しということで、今日は、前半の通し稽古をしてみることに。すでに行った後半の通しでは、たいした部分ではなかったのですが、前半は通しをするのは実は大変。なぜなら、場面転換が大変なのですね。何度も書いていますが、今回は昭和30年と、その20年前を行ったり来たりする構成。時間が変わるごとに暗転を入れるなんて、私のポリシーが許しません。だって、そんなことしたら、13回もの暗転が入ってしまいます。てなわけで、「G2十八番の役者が動いての場面転換」の登板です。場面繋ぎの部分の確認をしていよいよ前半部分の通し稽古。
 いざ、通してみると、小道具類が芝居の間に思わぬ位置に行ってしまったりして、決めた段取りが崩れる……と思いきや、約二名の役者さんが、見事にフォロー。違う場所に来てたら自分の担当ではないのにはけてくれたり、邪魔なものがあったら、お芝居をしながら片づけていったり。いやー、機転の利く役者さん二人でした。その二人とは、新谷ちゃんと、廣川さん。偶然にもナイロン100℃の二人。これは偶然なのか、それとも劇団カラーなのか? ちなみに二人は芝居でも何か注文すると、「あっけなく」やってくれる。せっかくやってくれているのに、この「あっけなく」というところで何か不満が残ってしまう私は贅沢?

3月18日(金) 通し稽古
 いやー、やっと来ました。この日が。何度芝居をやっても、この日は楽しみです。通し稽古。やっぱ稽古は通し稽古だよ。抜き稽古は嫌い。ほんと嫌い。N川さんのように稽古初日から通し稽古したい。
 そして今日から音響さんが稽古場入り。これも嬉しい。音楽などは演出助手の美紀ちゃんが出してくれてはいるのですが、ごめん、やっぱ音響さんが機材を仕込んでの音出しはやっぱいい。がぜん色々と見えてくる。通し稽古前に音がからむ場面だけチェックしていくのだけれど、音響さんが出すと何か見えるものがあって、段取りのチェックなのに、芝居の質についてもああだこうだ言い出す私。そんなワケで音チェックは遅々として進まず。楽しみにしていたはずの通し稽古は30分押しでスタート。
 感動の通し稽古でした。前半はまだまだ整理しなくてはってカンジですが、後半はもう本番10日前にして、ほぼ完成の域と言っても過言ではないでせう。いやー、早く見せたい。早く劇場で見せたーい。などと言っている暇もなく、通し稽古後、照明打合せ。倉本さんに「芝居がいいところになったら、良い照明になるのではなく、もう最初から良い照明にしておいてください」と意味不明の注文。さて、どんな照明になるか。楽しみです。

3月19日(土) 血統
 昨日の通し稽古の喜びもつかの間。3日後の二回目の通し稽古へむけてコツコツと各シーンのチェック。今回は、人数が多いので舞台装置への人物のレイアウトが難しい。特に前半は工員たちがひしめきあって、前の人で後ろの人が見えないシーンが続出。かといって全員ちゃんと見せようとするとヨコ一列になってしまってカッコ悪い。
 今回のセットは段差がないから、前後のレイアウトが難しいのだなー。ま、カッコ良さをとってやや人物かぶり気味にすると思います。お目当ての役者さんが角度によって見えないとかあっても許してね。全体の勢いを見て下され。
 一昨日劇団カラーのことを書きましたが、木下政治くんもやっぱ劇団M.O.P.の人ですねーっと思いました。M.O.P.の役者さんは、稽古終了宣言しても、居残ってその日の稽古についていろいろと食い下がってくる。「あそこはああいうふうに演技したが、あれで良かったか? もっと別の方法はないか? G2さんはどう感じたか? 次はこうやってみようと思うがいいか?」キムラ緑子さんもそうだったし、最初のころの三上くんもそうだった。政治くんもやっぱりそういうタイプ。劇団カラーってやっぱあるのね。


3月22日(火) 弱点には弱い
 通し稽古が終わってからの、弱点部分の稽古ってホント苦痛である。じっくりじわじわ。しかも弱点部分っつーことはうまくいってないところばっかを細かく返すわけだから、ほんと、ストレス貯まる。なので、3日間ほど日誌は休ませて頂いた。
 今日は4日ぶりの通し稽古。ますます中身は充実。だがショッキングなことが……。それは公演時間。前回の通しで2時間40分。こんなものはだんだんと短くなり、最終的には2時間15分くらいになるだろうと踏んでいたのだが、今回の通しは2時間35分。あれれ? 5分しか短くなってない。うーむ。


3月23日(水) お休み返上で台本にカット入れ
 今日は、稽古休み。が、一念発起して台本をカットすることに。この台本をカットする作業って時間かかるのよ。今回は特に1年前に第一稿を書き、第二稿に書き直す時に、余分な台詞はすでにカット済み。どこもかしこも切りたくない台詞ばかり。切ったりしたら確実に赤い血が噴き出す。だって、ホント良い台詞が多いのよ。今回は。(自分で言うなっつーの)わー、どうしよう、この台詞、惜しいなー。なんてウジウジやってるから余計に時間がかかる。しかもカットを考えると、カットされた部分の補足をするために、他の部分の台詞も多少書き直さなきゃ。なんてやってるうちにラストシーンの5分間をまるまる書き直したりしてしまったりして。

3月24日(木) キャラと国籍が突然変異
 全27カ所に及ぶカット部分と、ラスト3ページをすべて書き換えたりしたのを、頭からあたっていく。そして強引に通し稽古。とにかく通し稽古。通し稽古はどんどんやりたい。通し稽古をやればやるほど役者は良くなっていく。
 今日の通しで突然、豊原里美演じる如月五月は、李五月と改名。台湾生まれの日本育ちという設定となった。台湾のハーフの豊原は、その設定になった今日の通し稽古から台湾なまりのカタコト日本語となる。「なにか一皮むけて欲しい」という私からのリクエストの答えだ。これ結構、はまった。舞台である「向島石鹸・第三工場」はますますダメ〜な工場になった。良い意味でね。ただし、突然の台湾なまりに他の役者は大爆笑で、実はそのせいで通しはしどろもどろだった。でもさ、笑いの絶えない稽古場はいいもんだよ。

3月25日(金) 衣裳付き通しは楽し
 今日は衣装付き通し、いいねー。昭和初期の工員さんたちの出来上がり。女子工員の三角巾がいいなー。木造の工場の舞台装置とばっちり噛み合って、なんか良い雰囲気になりそうな予感満点。須藤ちゃんの奇跡の早変えも成功しそうだし、衣装には大満足。男性陣に頭が大きな人が多いので帽子に困ってるけれど。
 最初は工場の話だから、超つまんない衣装になるかも。という不安はあったのですが、なになに、なかなかに衣装の堀口さんが工夫を凝らしてくれて、全体的に明るいタッチ。そして深みと柔らかみのある風合い。こうやって衣装が揃うと突然、雰囲気が出るから不思議。
 衣装通しの後は、ご機嫌で飲みに行く。今回は経費節減と体力増強のため自転車通勤。あまり酔っぱらわないうちに帰るのが日課。なんか歳とると健康が嬉しい。
3月26日(土) 瓜生ちゃんの歌声
 今日も今日とて通し稽古。今日の目標はアップテンポ。「本番中に入ったら実験的なテンポアップはできないので、今日、思いっきり『やりすぎかな?』っていうくらいテンポアップしてみてください」
こういう言い方をするとテンポアップに疑心暗鬼な役者もテンポアップしてくれる。
そして結果はだいたいにおいて良い。初回通しが2時間40分かかったのにくらべ、今日は2時間20分。ふう。
 ところで今回も音楽は佐藤史朗さんと瓜生亜希葉ちゃん。今日でほぼ瓜生ちゃんの曲のどれを使うか決定。いいねえ瓜生ちゃんの曲は。今回はとっても切ない「夏至」と「バアムクーヘン」を、ニューアルバムからセレクト。いつもは依頼してその芝居のオリジナルとして書いてもらうのだけれど、今回はリリース前のニューアルバムのデモを聴いて「わー、この曲、『キャンディーズ』に使いたい〜っ!」と駄々をこねたところ実現したというワケ。昨年末にリリースされた瓜生ちゃんのCDは4月のマンスリーショップでも手に入る。
3月27日(日) お疲れ様でした
 長かった稽古も今日で終わり。今日は最終の通し稽古。最後の通しが気持ち悪いと初日に不安が走る。とても大事な日である。
 いやー、なかなかに良い芝居を見せてもらい、ちょっと一安心。そして、いい「キス」も見せてもらった。劇場に入ってからマジ線でと思っていたのだが、突発的に朝晴が理彩の唇を奪う。いやー、強引かつ突然だったから、余計にシーンとマッチして良かった良かった。
 さてはて、稽古場日誌もこれで最後。途中3日ほどお休みを頂きましたが、「3日坊主」にはならなくて済んで良かったです。かつて「止まれない12人」の時は、途中でリタイア、役者の皆さんに手伝ってもらたりしたこともあったっけ。(そのほうが読む側は面白いと思うのですが)
 そういうわけで私のゴタクはこの辺にしておきます。劇場でお会い致しましょう。

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