「ウドンゲ」とある稽古場の一日

 さて、映画なら「撮影快調!」という表現があてはまるのでしょうか? これを書いている時点ではまさに「稽古快調!」稽古場で次第にその全貌を現しはじめている「ウドンゲ」の世界。
 そこで今回は、「とある稽古場の一日」を通して、その世界と3軒茶屋婦人会のメンバー、篠井英介、深沢敦、大谷亮介の奮闘ぶりをご紹介しようと思います。

 上演する劇場がベニサンピットということもあって、稽古場もベニサン。森下にあるこのスタジオはぜんぶで10ほどあり、新宿村スタジオ、錦糸町のスタジオと合わせて東京演劇三大スタジオのひとつ。(そう呼ぶひとはわたしだけですが)
 さまざまな団体がここで稽古してます。例えばダンダンブエノとか、イキウメとかが同じビルで稽古してます。獅童さんの「羊と兵隊」も。森下駅の構内でイキウメの主宰の○○くんと会ったりしますし、その気になれば、ふと隣の稽古場に遊びに行けたりします。
また、森下には駅の反対側に、やはり演劇の稽古場である森下スタジオがあり、そこで「Sisters」を稽古中の吉田鋼太郎さんが、ウチの稽古場まで遊びに来てくれた日もありました。
 そんなロケーションにあるベニサンの我が3軒茶屋婦人会の稽古場は、第4スタジオ。これがビルの4階にあり、古いビルでエレベーターなんぞありませんから、夏の炎天下、ビルの外壁に作られた階段を汗をかきかき登っていくのが日課となります。
 さて、私が到着すると稽古場はこんな風景です。
 深沢敦さんは大抵中央の「読合せテーブル」でお昼ごはんを食べてます。大抵は自家製のお弁当。美味しそうです。篠井英介さんは一見すると姿は見えていませんが、いちばん早く稽古場に到着して、仮組の装置の裏で柔軟体操をされています。大谷亮介さんは私が到着した数分後、いつも私の倍ほど汗をかいて稽古場の階段を上ってきます。

 ベニサンの稽古場は、建物は古く、歩く度に床はぎしぎし言ったりしますが、今回の企画の割りには広く、あがってくるのは大変だけれど四階ということもあって窓を開けたり、踊り場に出たりすると、見晴らしがよく、気分も晴れます。
 企画の割りには広く。と書きました。というのも、赤堀くんが台本を書く前から言っていた、「狭い部屋の中で女三人が膝つき合わせている行き詰まる空間」というキーワードを受けて、アクティングエリアを敢えて狭く作ることにしたのです。
 アクティングエリアは、実寸の六畳間の和室と、三畳のキッチン。ほとんどこれだけ。
 おいおい、そんなので演劇の装置として大丈夫なのか?
 はい、大丈夫です。そこはビジュアルにうるさい私、ちゃんと大胆な演出をご用意しております。
 思い出してください。役者3人が芝居中に装置を組み立てることで三つの場面を創り出した「ヴァニティーズ」、そして「女中たち」では、スケルトンで、かつ「揺れた」お屋敷の舞台装置。今回も、ごくごく普通のアパートの一室ですが、ちょっと面白い空間になってます。これは本番をどうぞ楽しみにしておいてください。
 なんて自慢しておりますが、実は、英介さんが「このまま(の装置)ではつまらないわね。なにかプラスアルファを考えないとね」と背中を押してくださったので、頑張って考えたのですが。

 そうなのです。チラシをご確認ください。この公演の演出はG2&3軒茶屋婦人会。つまり全員での合議制で進められているユニットなのです。照明と音響に関してはかなり私にゆだねられていますが、装置の打合せは、演出家と装置家の打合せに俳優三人も参加して意見を交換します。衣装に至っては、俳優部が主導して衣装プランナーとやりとりします。なにしろ女装という特殊ジャンルですから、どういうものが効果的かは、英介さんや深沢さんがオーソリティー。頂いた台本の配役もみんなで相談しながら決めます。さかのぼって言えば、どの時期にどんな公演をどの劇場でやろう、というのもみんなで話し合います。まさに劇団的。

 稽古が始まってもそれは同じ。
 通し稽古が終わったら、基本は私が進行しますが、各自思い当たることがあれば、その場でどんどん意見を言っていく。あそこの芝居はこうした方が良い、あれは失敗だったからやめよう、この台詞の時に私を見てくれるととても芝居がやりやすいんだけど、反対にこの台詞は無視してください……etc,etc。
 特にこの討議中の、篠井英介さんの「女性分析」はホントにためになります。特に大谷さんが女性を演じるには英介さんのアドヴァイスがかかせません。「女を演じる基本は女を観察し、分析し、知ることである」という英介さんの信念にはただただ敬服するばかりです。これは女を人間に置き換えたらそのまま一般的な演技論にもなります。「台詞をどんなふうに言ってやろうか」という役者の欲よりも、「その場にちゃんとその人になって立っている」ということの大事さをあらためて感じます。

 稽古中の討議は、三回目の今回はさらに熱のこもったものになっています。
 やはり、初のオリジナル。しかも一筋縄ではいかない赤堀雅秋くんの台本。そして特筆すべきは、今回の台本は、赤堀くんとしてはとても珍しい(と思うのですが)ハッピー・エンディングなのです。
 重苦しい長い雨の夜を過ごした女三人が、翌日、癒しの朝を迎える。一言でいうとそういうストーリーなのです。
 だから、赤堀作品としては珍しく、見る側はけっこう肩の力を抜いて、楽しく観ることもできる作品になりそうです。息苦しく重苦しい雨の夜にも、人間のおかしみがたっぷり染みこんでいますから、実際、息詰まりながらも笑えるところもたくさんありますし、生きるのに疲れた人には、元気の出るエンディングになっている。
 けれど、赤堀君の台本は、それを安易には演じさせてくれません。たった一夜のお話しですけれど、それぞれの三十年間を背負って演技しなければならないんです。これが難しい。何しろ、三十年間会うのを封印してしまっていた三人。しかも三十年前の女子高校時代にある事件が起こって……いや、これ以上はネタバレになるのでお話しできませんが、そういう微妙な心情をどう表現していくか、そんなことをみんなで話し合い、アイディアを出しながらの稽古なのです。

 英介さんは、今回、五十歳の女というリアルな年齢を演じますが、この夜にはいちばん「女の魅力」をふりまく人。人の心のひだであったり、心の奥からぽっかりと浮かび上がって来た生々しい感情も、直接、吐き出すのではなく、不思議なベールでそっと隠して芝居しているかのよう。立ち居振る舞いがいちいち美しい。台詞がいつもメロディアスでつい稽古中にも聞き惚れてしまいます。

 深沢さんは、いつもの「おねえキャラ」とはちょっと違う役どころ。深沢さんって、舞台ではあまり見せないけれど、普段はつぶらで優しいまなざしの人、そのまなざしが今回は役どころに必要になってきます。見方を変えれば、きまぐれな天使みたいな役なんですよ。五十歳のおばちゃんの役ですけど。地味な演出ですが、歌と踊りの披露もあります。

 大谷さんは、努力の人。女性を演じるこのユニットにおいてはそれに一層拍車がかかります。気分屋さんなので、毎日いろんなことを考えついてしまうので稽古場がせわしない。「だだっ子」なのでなにかと稽古中にはいちばん手のかかる人なんですけど、本番では見違える演技で、そんな苦労を忘れさせてくれます。結局、いちばん「おいしい」ところをかっさらっていく人。

 平均年齢が今年で五十歳を迎えるという三人。(私も今年で四十九歳!)稽古場は大人な雰囲気です。作家の赤堀くんの三十七歳がまぶしいくらい。
 年齢のこともあって和気藹々の中ゆったりと稽古が進みます。けれど、もちろん、それぞれの俳優は、うまく演じられるだろうかという不安ともそれなりに戦っているのも肌で感じます。たった三人で舞台空間を二時間近く埋めなければならないのですから。しかも安易には演じたくない赤堀脚本。時間との戦いもあります。出演しない私でさえ、気力体力的にめげそうになるのは事実です。

 でも、そういう私たちに一服の清涼剤ならぬ強壮剤となったのが、関係者からの手紙の数々。
 実は、今回のパンフレットで、日頃お世話になっている人たちからの手紙を乗せるという趣向があり、その原稿が稽古場に次々に届いてくるのです。
 以下、順不同でごくごくさわりをご紹介すると……

 「したたかに、たおやかに、潔く、頭いい三人烈女の芝居っぷり」from青井陽治氏
 「この三人の役者と一人の演出家の身体の芯にある真摯な心根を感じます」from池田成志氏
 「自らを演劇に捧げながら、自らを笑うことのできる三人。愛してます」from渡辺えり氏
 「演出を託されたG2氏は、さぞや稽古場でニヤけていることだろう。実にうらやましい」from鈴木勝秀氏

 どの人の手紙も全文読むと、そのあまりの愛情の深さ(もちろん我々に対しても、そして演劇というものに対する愛においても)に思わず胸の奥がじーんと熱くなってしまう。そして、気がついたら明日への活力がいつのまにか身体にみなぎっているのを感じます。
すごい力ですね。言葉を知り尽くした人の言葉って本当に力があるものだと痛感しました。(なので全文ここに掲載したい……ところではありますが、すみません。パンフレットをお買い求めくださいませ)
 他にも、英介さんへ鈴木由美氏から、深沢さんへ杏子氏から、大谷さんへ寺脇康文氏から、それぞれ暖かい言葉を頂きました。制作を代表してお礼申し上げます。皆様の言葉は(パンフに載る前から)わたしたちが稽古を乗り切るための活力となりました。本当にありがとうございました。

 さて、今夜は稽古場に作家の赤堀くんが来てくれたので、ホンの少し、角の中華屋でメシを食って、紹興酒でも嗜んで、明日の稽古のエネルギーを補填することにします。
 最後まで読んでいただいた皆様、ありがとうございます。そして「ウドンゲ」ぜひご来場ください。
                         3軒茶屋婦人会 演出担当 G2

P.S.
実は、この夜四人で紹興酒を一升、空けてしまいました。「いい加減にしろよ自分」と言いたい気分です。



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